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太智「ねぇ……」
警戒心を強めて、俺はこの柔太朗と名乗る白い服の男を注視していると、その横で太智がすっと彼に歩み寄っていた。
柔太朗「何かな？塩��太智君？」
勇斗「おい、太智！気を付けろよ！こいつ、何してくるかわからないぞ……」
柔太朗「そんなに警戒しなくとも、僕は何もしないよ……」
そんな言葉、まだ信じるわけにはいかない。
そもそも、信じていい存在なのかもはっきりしていない。
少なくとも、俺の中ではこいつは突然現れた正体不明の人物。
本当にずっとここにいて、俺達と同じようにこの砂漠に放り出された人間か、はたまたこの映画館に出没すると言う噂の幽霊そのものか。
もしくは、この砂漠の中で生存している人間か。
どれにしても、こいつの事はまだ何もわかったわけじゃない。
それまでは、この警戒を緩めるのは危険かもしれない。
しかし、太智はあまりそんなこと考えていないのか、徐に柔太朗の方へ歩いていくのだ。
太智の奴、一体どうしたんだ。
太智「あ、あの……」
柔太朗「うん？」
太智「さっき、映画が悲しんでるって、そう言ったよね……？」
柔太朗「あぁ、言ったよ。それがどうかしたのかい？」
太智「実は、僕もずっとそう思ってたんだ……。この映画からは、なんだか悲しい感じがするって……」
勇斗「悲しい感じ……？」
ただ砂漠の映像を垂れ流しにしている、この映画が？
太智には悪いが、俺にはどうにもそんな風には見て取れない。
そもそも映画とも言い難いこんな映像を観て悲しそうだのなんだのと、そういう感情など微塵も出てこない。
けれど、映画好きの太智にとっては、この映画はなにか訴えかけてくるものがあるのかもしれない。
そう言えば、Aもなんだか惹きこまれると、そう言っていたっけ。
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年8月11日 17時
