匰の中で(1) ページ44
伊藤マネが来てくれた。
やっと来てくれた。
でももう力が湧いてこなかった。
浮いたり沈んだり、ホント情緒ヤバい。私。
うっすら笑みが浮かぶ、疲れ果てた自分。
長澤さんにこんな状態の自分では会えない。
さすがに無理。確かに責任はある。今日という日をスキップして、この先の長い稽古期間に他の共演者との信頼関係を構築するのにも大変な労力がいるだろう。
でもそもそも、私はこの仕事をどうしても続けたいのだろうか。今もしも仕事と御幸くんどちらかひとつ手に入るのだとしたら、私は御幸くんがほしい。御幸くんしかいらない。神さまお願い。私、頑張ったよ。もう何もいらないの。だから、御幸くんを私にくださいっ!
「Aーーーっ!聞けーー!」
御幸くん?!
「♪
何度もー! すれ違って!
何度もー! 傷つけあっても!
何度もー! その手掴むために!
何度もー! また探すよ!」
御幸くん、メロディー適当すぎ。
泣き笑いの私の顔は本当にぐっちゃぐちゃだけど、
来てくれたことで胸がいっぱいになる。
「A。そっち、行ってもいいか」
来てくれた。
「顔が見たい」
私も。
「声が聞きたい」
私も。
「キスしたい」
私も。
「抱きしめたい」
私も。
「なあ。オレのこと、もう、好きじゃなかったらそう言ってくれていいよ」
そんなわけないよ。
134人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ほさつ1秒83 | 作者ホームページ:https://twitter.com/hosatsu1_83
作成日時:2021年8月29日 19時