宙よ光よ手を差し伸べよ(1) ページ26
『宙よ光よ手を差し伸べよ』
大きな掛け軸にしたためられた言葉に違和感が走った。その横にSEIDOとは違うシンボルマークが飾られている。
SEIDOの応接間に通され、伊藤ちゃんと二人で会長を待っていた。
「なぁ、アレ、なんなの?」
「あとで話す。今はダメだ」
ガチャリとドアが開き、会長伊藤青彦と女性が入室してきた。
「意外な組み合わせだな。まさか揃って来るとは」
「ええ。最近顔見知りになりまして。分かってたんでしょう?」
「まずは君の話をしようか」
伊藤ちゃんは襟を正す。実の父親と話す時の緊張感とは思えないのは、礼ちゃんが高島理事長と会ったあの時と似ていた。
「それで?眞白心音のイメージキャラクター起用は、道則とお前で決めたことだろう?」
「だったら、なんで差し込んできたんですか」
「約束を守ってないように見えたからね。お前が時期社長になるのを早めたい。その前に婚姻を進める」
なんだろう。この違和感は。
掛け軸と同じように居心地が悪い。
美しい言葉の掛け軸、そして、この人たちの穏やかそうで達観したような落ち着き払った様。
「はい。礼と結婚してマネージャーを続けます」
「兼業は無理だと思うが?」
「辞めることはできません。眞白心音はまだ他の人間では……」
会長は隣の女性に目配せし、そして頷いた。
「御幸くん。以前から会いたいと思っていた。よく来てくれたね」
「突然の申し入れ、お引き受けいただきありがとうございます」
会長にニコリと微笑みかけられたが違和感が拭えない。手数は多く用意してきたつもりだったが、おそらくはいくつかを改める必要がある気がする。隣の女性は奏の母親?
人の顔を覚えるのが得意なオレだが、実は女性を覚えるのは苦手だ。
「丸茂さんですか?」
会長に問うと、女性は少し眉根を寄せて「高樹よ。高樹陽子」と名乗った。
出揃ったな。伊藤ちゃんを見ると絵も言われぬ戸惑いの表情を浮かべ、とても見ていられない。
礼ちゃんの異母兄弟を産み、そして今、自分の親と添おうとしている女。その思いはオレにも全く想像がつかなかった。
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作者名:ほさつ1秒83 | 作者ホームページ:https://twitter.com/hosatsu1_83
作成日時:2021年8月29日 19時