piece407 ページ7
.
出されたラーメンをみんなで一斉に食べ始める。
一口食べて、全員が一瞬箸を止めた。
「わっ、すっごいおいしい!」
「ほんとですね。どちらも……というか……」
「同じ、味……?」
このお店の味をよく分かっているだろう彩代さんが驚いている。
みんなの反応を見た後、小倉さんも目の前に出されたラーメンを口にし笑みをこぼした。
「賭けは全員外れ。村松だけが勝利したか」
その糸成の言葉を理解したのは村松と小倉さんだけだった。
「ど、どういうことよ? まさかウチのレシピを盗んだの!?」
彩代さんがそう疑うのも無理はない。それほど本当に同じ味をしているのだ。同じ材料を使っているから、ということだけでは説明ができない。
言い方を変えたら、“材料さえあれば家庭でも再現ができる”ということになってしまうのだから。
「盗んでねぇよ。勝負をしようと言ったのは俺の腕を試したかったからだ。勝てば自信にもなる。けど、材料を前にしたら分からなくなった。
脳内で何通りものレシピを作り上げたけど、この限られた時間で研究するのは不可能。勝てるわけがなかった。何日間、何年間という月日を得て作り上げられたであろうこれを超えれるわけがなかった。
だから考えたんだ。どうすれば勝てるのかではなく、これらの材料をどう生かすか」
なるほど……。村松は用意された材料を最大限に生かし、今できる最高のラーメンを作った。小倉さんも同様、最高のラーメンを作っている。
限られた材料の中でできる最高ラインは、そこなのだ。同じものを作られてしまえばこちらは評価できない。勝負をしながら勝負をさせなかった、村松の一人勝ち。
「すげぇよ。この短時間で用意した材料への理解は完璧だ。ウチのラーメンに無駄な工程や食材は存在しない。全部生きている。それを理解してくれて、ありがとう。材料ひとつひとつにこだわった甲斐があるってもんよ」
「……いや、今回のことがなかったら俺は、食材、器具、準備への深い理解をしようなんて考えなかった。ありがとうございました!」
2人は互いに手を差し伸べあい、結ぶ。はじめのギスギスとした空気からは考えられないだろう。
松来軒はまだ村松のお父さんが経営をしている。村松の仕事は言ってしまえば、用意された材料で最高のラーメンを作ること。今日の勝負と同じ条件だ。だからきっと、今回のこれは大きな一歩になるだろうな。
.
328人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
9ねみ(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます!文章の書き方など褒めて頂いて嬉しい限りです……!ありがとうございます!のろのろ更新続いてしまっていますが、最後まで楽しんでください! (3月4日 12時) (レス) id: 4b06e7d09d (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - あまりに面白くて昨日と今日で一気読みしてしまいました!文章の書き方、心情描写、展開に至るまで全てが大好きです!実を言うとコナンに関してはにわか知識しか持ち合わせていないのですがこの作品を読んで原作に興味が湧いてきました!素敵な作品ありがとうございます (2月11日 9時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
9ねみ(プロフ) - 聖奈さん» 聖奈さんありがとうございます!お待たせいたしました!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります! (12月29日 20時) (レス) id: 4b06e7d09d (このIDを非表示/違反報告)
聖奈 - 好きです!!!ほんっとに面白い!この小説に出会えてよかったです、最新楽しみにしてます頑張ってください(^^) (12月9日 23時) (レス) @page5 id: fdcdb1e8d6 (このIDを非表示/違反報告)
9ねみ(プロフ) - ますしんさん» ますしんさん、ありがとうございます!書き方については度々悩んでしまうので、高度なんて言っていただけるなんてとんでもない励みになります……!大変嬉しいコメントを頂けたので、楽しんでいただけるよう頑張ります! (9月7日 1時) (レス) id: 4b06e7d09d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:9ねみ | 作成日時:2023年8月21日 22時