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『熱くない？』
「ちょうどいい」
シャンプーの前にぬるま湯で髪の毛をすすがれながら答える。逆上せるのが不安ならシャワーだけでいいんじゃない、と提案され、Aはお湯のない浴槽に入り、濡れてもいいというTシャツとハーフパンツに着替えた。
『シャンプーしますよー』
「はぁい」
本当は俺が甘やかしたいのに、約2ヶ月間舞台の稽古や本番を頑張ったAを労りたいのに至れり尽くせりだ。
『ねえふっか？』
「ん？」
『最近色んなこと、溜め込んでない？』
というか、言ってくれないと困る。Aはシャコシャコシャンプーを俺の髪の毛に絡ませ、泡立てながら洗う。
「溜め込んでる？」
そんなことないよ、と言いかけて淀む。
『何が、とは言えないけど今世の中の好奇の目に晒されてるわけじゃない？』
「……うん」
まさかAから話題に踏み込むなんて思わなかった。
『もしかしたらそういうストレスが積もり積もったのかなって』
お互いに避けてきた節もあった。
『何が正解か分かんないし多分私が思ってる何倍も苦しんでて葛藤してて、これからの行先に不安を抱いてると思うの』
「うん」
『これからの成り行きによってあることないこと情報に振り回されると思う。何を信じていいのか分からなくて迷って、顔には出さなくても先行きの不安定さに打ちのめされることもあると思う』
でもね、とAは続ける。
『私は味方だからね。どんな状況でも歯を食いしばってファンのために笑顔を届けようとするふっかを尊敬してるし、色んな思いがある中で自分を鼓舞して表に立つふっかを誇りに思ってるよ』
「ありがとう」
雲行きが怪しく様々な意見をいただく、求められる機会が増えた。昔からアイドルというだけで恨まれていたのに、最近になってより悪意を孕んだ言葉まで貰うようになって自分自身落ち込んでいた。見返してやろうと躍起になりながらも苦しいものは苦しい。
「お前は本当に凄いよ」
そこにAの遠征が重なって、知らず知らずのうちにストレスが頂点に達していたのだろう。癒しの効果を身を持って知らされた。
『何がよ』
「なんでもねえよ」
本人には素直に言えない。
『言ってみなさいよ、発熱マジックで』
「ねえよ！ そんなの！」
でもAのおかげでどんな不条理も乗り越えられることにいつも感謝している。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年8月28日 23時
