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3人で談笑しつつ、私は台所に立った。私が使わなければ一切使われない調理器具は2週間のうちに少しホコリを被っている。
冷蔵庫の中にひよこのプリンや果物ゼリーを片付け、調理器具を軽く水洗いしてふきんで水滴を拭く。鍋にパックご飯と水を入れてIHクッキングヒーターのスイッチを押す。
『涼太くんと照はご飯食べた？』
「食べたよ」
『辰哉くんは？』
「食ってない。そもそも今日1日水かスポドリしか飲んでないと思う」
「少なくともロケ弁を食ってる姿は見てない。持ち帰ってもないはずだよ」
『馬鹿野郎すぎん？』
飲み物しか口にできないくらいしんどかったのに全ての仕事をこなしたのか。その精神力や忍耐力は尊敬できるけれど、体調が悪い時に発揮されると修復に時間がかかる。
水分が飛び、ご飯の粒が程よく崩れてきた。クツクツと気泡が立った頃合いでお玉で鍋全体をかき混ぜる。料理酒と塩、鶏がらスープを少々入れて再びかき混ぜる。
「しばらくお嬢がいなかったから食が細ってたのかもね」
「ゲーム優先してまともに食べてなかったと思うし、まともに睡眠も取ってなかったんじゃない？」
「栄養が不足してたとこに疲れとストレスが爆発しちゃったのか」
『……本当に困ったもんだよね』
火を弱め、ボウルに卵を1玉割り入れる。トントン、カシャッ。辰哉くんは私が卵を割る時、殻が叩き割られて薄い膜が破れる音が好きだと言っていたっけ。咀嚼音とは違うけれど、その類の耳触りのいい音だと。
『辰哉くんなりに気遣ったんだと思うよ？ マチソワ終わってすぐ名古屋から帰ってくるわけだし、疲れてるのは疲れてるし』
白身と黄身を溶いて鍋に回し入れる。
『でもさ、私にも心配させてほしいよね。悪化させてるじゃん馬鹿野郎、って思うわけよ』
卵が固まったら火を止めて蓋を閉める。5分ほど蒸らして盛り付けたら完成だ。
『辰哉くんはお前は無理するからって言うけど、そっちこそ無理するじゃんって』
キッチンを出て、キャリーケースからフェイスタオルを取り出す。コインランドリーで洗濯しているから清潔だ。汗ばんだ額をそっと壊れ物を扱うように拭う。1日中高熱に苦しんでいるから辰哉くんは随分やつれていた。
「んん……？」
ゆっくりと開かれた瞼。雌雄眼の瞳が血走っている。
『おはよう。ただいま』
「えっ、A……？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
