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あの場にいた佐久間にとってAの放った言葉はインパクトが大きく、耳に残るのは仕方がない。俺にも残っているけれど、実際に俺の心に深く刻まれたのはそれだけじゃない。
「あの子、確かに酷いこと言ったよ？ でもああやって怒ってくれたのはAが初めてなのね？」
「ほお」
「……ただ説教をしたんじゃなくて、俺のことを考えて伝えてくれてたのが響いた。Aのおかげで、俺は女の子達だけじゃなくて自分も大切にできてなかったんだなって初めて気づけたのよ」
俺はデビューができないもどかしさを遊びで忘れようとしていた。でも結局忘れられなかった。腰を振っていると快楽で一瞬だけ忘れられる。我に返ると漠然とした不安が何度でも襲ってくる。
「Aは上っ面だけ見て判断してない。俺の中身を深いとこまで知って理解してくれてる」
自分の行為の様子やメッセージのやり取りがSNSに流されてしまわないか。デビューの足枷になってしまわないか。それだけの過ちを犯している自覚があり、Aにも知られている。今思うと本当に恥ずかしい。
「だから俺、チヤホヤしてくれる女の子達よりも、俺のダメなとこを受け入れつつ厳しく的確に指摘してくれるAを一生大切にしたいって思ったのよ」
「お前本気なんだ」
皆が真剣に聞いていた中で佐久間がゆっくりと口を開いた。
「本気。比べるもんじゃないけどサエちゃんより本気で好き」
運命の出会いなんて信じちゃいない。でもそういうのがあるとしたらどんな人なのだろう。俺はずっと考えていた。
「じゃあ明日の飯、俺と照って邪魔者だったりする……？」
佐久間が申し訳なさそうに眉を下げた。突然矢面に立たされた照はにわかに戸惑い始める。そうだ、今日俺が相談したかったのはその話だった。
「いや、Aの希望だから……」
自分の声色が下がった。自覚できるほどに沈んでいる。
「藤やんの？」
「おう。さっき照に話そうとしてたんだけどさ……」
俺は2人を誘う前にAを誘ったこと、受け入れられたけれど2人きりには消極的だったことを話した。ついでに照や佐久間、翔太が引き合いに出されたのも口にしていた。
「あいつナチュラルに痛いとこ突いてくるねぇ……」
「いや、マジで。その通りなんだけど心が痛え……」
「Aらしいけどね、そういう気遣いができるの」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
