悲しみのわけ ページ37
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ありがたいことにここ数年で役者としての仕事を貰えるようになった。自分の演技が大根に毛が生えた程度でしかないのは自覚している。見る人に対して自然な演技ができているな、と思わせるだけの実力が全く足りていないのも重々承知している。
それでも求められるからには制作陣の期待に応えたい。俳優としての渡辺翔太をもっともっと求められたい。
「なあ、A」
『んー？』
「お前ってさ、悲しみの芝居がめちゃくちゃ上手いじゃん？」
だから俺は芝居上手なAに質問をする。めめも映画やドラマで経験を積んでいるけれど、それでも本業役者のAには敵わない。silentの時なんて泣きの芝居で格の違いを見せつけた。SNSでもAの涙に泣かされた人が続出していた。
世の中に白が200色あるなら、Aの涙はそれ以上ある気がする。
「何したら上手くなるわけ？」
脇役よし、主役もよし。弱冠20歳で帝劇の主演に上り詰め、22歳で朝ドラの主役を務めた本格派で実力派の女優。高校生の時から仲良くしている女友達はそんな子だ。
『質問ざっくりしすぎてない？』
ふっかの家で季節外れの鍋を3人で囲む。Aの気分で豆乳鍋だ。クーラーを効かせながら熱々の具材を口に含むと、丁度いい安牌に落ち着く。久しぶりに食べた豚肉の美味さに密かにビックリしている。
『しかもその話ふっかは着いていけなくない？ ドラマNGだから』
「確かに」
「別にNGじゃないのよ。なべも納得すんな」
Aレベルの女優さんなら付き合う相手も大物の役者であってもおかしくない。むしろそうでなくては困るとさえ思っているファンも少なくないはずだ。でも彼女が最後の相手に選んだのはドラマ班という名の、バラエティーに全振りしつつあるジャニーズアイドルだ。
『でもなべしょ頑張ってね。帝劇の0番、本当にいい景色だよ』
「あざっす」
『相方が慎ちゃんなら絶対大丈夫だと思うし。あの子肝が据わってるからさ？』
「あのね、俺もめちゃくちゃ感じてる。あいつの安心感ヤバい」
『何なんだろうね、慎ちゃんって。26の貫禄じゃないよね？ 40代の貫禄あるよね？』
「ある。めっちゃある」
帝劇で主演だなんて自分でも実感が沸かない。でも稽古場やステージで稽古をして、お客さんを入れて本番が始まったら嫌でも実感するのだろう。
「翔太、A？ 無視やめて？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
