ただ優しいだけじゃない ページ35
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激しい眠気に襲われ腰が重い。時折頭や下腹部に鈍痛が走る。そしてデリケートゾーンの不快感。どうして女性という生き物には生理──月経なるものがあるのだろう。
『ふぅ……』
クーラーで体が冷えた影響なのか今月の生理痛は一段と重い。台本やノートを開いて稽古の復習をしても、気休めに小説を読んでも集中できない。とにかく気だるくて眠い。無限に寝ていられる気がする。痛み止めを飲んだ影響もあるのだろう。
何もかもやめてソファーに横たわる。外は暑いけれど少し寒く感じて羽根なし扇風機のみ回し、タオルケットを被る。その温かさに眠気を誘われた私は一瞬にして眠りに落ちていた。
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どれくらい寝ていたのだろう、目を覚ますと消していたはずのエアコンが稼働していた。微かに汗の酸っぱい匂いがする。寝ている間に大量の汗をかいていたらしい。
「おっ、起きてる」
少し湿っているTシャツを脱いで新しいものに着替えようか考えていると、上半身裸でパイル生地の黒いハーフパンツを履いた辰哉くんがリビングに入ってきた。
『おかえり……』
「ただいまぁ」
その腕にはワンポイントの黒いロゴTシャツがぶら下がっている。首からぶら下がったフェイスタオルが濡れているあたり、シャワーを浴びていたのだろう。メガネをかけて完全オフモードな辰哉くんをひと目見るだけで再び眠気が襲ってきた。
「あっ、お前さぁ、ダメじゃん。クーラーつけないと！」
『ふあぁ……っ、うん……』
「あくびっ！ あくびまでかぁいいけども！」
俺真剣なんだから、と辰哉くんは怒っているのではないけれど冗談らしくもないトーンで話す。
「そりゃあね？ あなた生理中だから体冷やせないのは分かってんのよ。でも今年もめちゃくちゃ暑いじゃん。早く終わったからこっちに帰ったけど、扇風機回ってるけどクーラーつけてないし、ロンTにタオルケット被ってるから汗びっしょりだし、何回呼んでも起きてくれないし熱中症になったかと思ったわ！」
焦ってつけたっつーの、と辰哉くんは悪態をつく。彼なりに心配してくれていたようだ。
「温度高めでいいからクーラーはつけよう？ な？ 熱中症になってからじゃ遅いんだからさぁ？」
『はーい』
「お水も飲みなさい！」
ただ優しいだけじゃない。優しさ故に怒ったり注意してくれたりする。それが深澤辰哉という男だ。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
