＊ ページ33
·
めめとラウがふっかさんの彼女の存在に気づき始めたタイミングもそれなりに早かった。
でも俺は偶然が重なってデビュー決定直後に知れた。あの頃はまだ完全には打ち解けてへんかったし、本人も話し出そうとはせえへんかったから無理に聞くこともなかった。まさか盗み聞きをしていたなんて言い出せるはずもない。
いつかその時が来たら話してくれる。その頃には仲良くなってるはず。想定外だったのは仲良くなるのは一瞬やったのに、“その時”が来るのが遅すぎたことくらいだ。
「あのさ、俺、Aにプロボーズしようと思ってる」
「えぇ！？ 結婚！？」
超音波ばりの驚きの声がラウから繰り出された。ふっかさんの自宅に防音設備があって良かった。
「おぉ、すっげーデカい声」
“Aさん”という女性の正体は主役も脇役も、舞台もドラマも映画もマルチにこなす女優さん。あの時既に日本を代表する役者さんやった人が愛するのは1つ年上ながら、未だデビューできていない実家暮らしの男。
「そう、プロポーズ。俺、Aと結婚したいの」
「おめでとう。俺は賛成」
決していい立場だとは言い難い男とお付き合いをするやなんてAさんにも覚悟が必要だったはずだ。
Jrは無給ではないけど、デビュー組に比べたら懐事情は厳しい。Jrとしては売れっ子でも、好きな女性には財布を出させたくないふっかさんでもAさんに奢られなければならない、頼らざるを得ないことがあっただろう。
「俺も賛成だしおめでとうだけどぉ……」
「だけど？」
「推しの結婚は複雑ですぅ……」
もしそうだったとしたら、好きな女性の前で男らしくありたいふっかさんにとって屈辱だ。でもきっと、Aさんにとってはどうでもいい。
「Aちゃん離れしなきゃいけないのかなぁ……」
何があっても、どんな状況でもそばにいたい相手。感情をむき出しにできる相手。それこそがふっかさんにとってはAさんで、Aさんにとってはふっかさんだった。
「何でA離れするのよ」
「えっ、だってAさん人妻になるんだよ？」
「確かに結婚したら変わるべ？ Aのプライベートはガラッと変わるけど、仕事面が変わるかって言われたら変わらないし変えてもらうつもりもないよ？ 苗字は変わっても芸名は変わんねえし、今まで通り仕事も続けるし」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1120人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
