Time goes by 5th (ページ32)

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呼び方を変えてみませんかその3 ページ32

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ふっかさんが“俺ら”の加入を心から受け入れられるようになったのは、今は亡き社長からデビュー決定を告げられた頃やったという。

当たり前やと思う。6年間、いや、その前からずーっと一緒に戦い、苦楽を共にしてきた6人ではデビューできない。だから3人のメンバーを入れます、なんて到底受け入れられるもんやない。

俺やって関西ジャニーズではデビューできひん、関東へ行ってください、なんて言われた時は頭の中が真っ白になった。

でも俺以上にふっかさんは悔しい思いをしていた。

エリートJrの1人でありながら自らが所属したグループは全て自然消滅、デビューは後輩達に先を越されつつある。自分より遅く入所してきた子らのバックで踊らなあかんこともあったふっかさんの心中は、俺なんかでは推し量れるもんやない。

口では感謝してくれても本当は複雑でやるせない。ただ優しいだけやない人間らしい一面に俺はひどく安心した。

「A、話がある」

俺がふっかさんの“大切な存在”に気づいたのはデビューを告げられた翌日やった。その日は雑誌の撮影があって9人とも集まっていた。

誰にも見つからんような場所で、1人で声を潜めて電話をかけていた。あの時は多分、“俺ら”だけやなくて5人にも“Aさん”の存在を伝えてへんかったのやろう。

「あのさ……」

ふっかさんが泣いている姿を見たのはメンバーが増えて初めてファンの前に立った舞台以来やった。ふう、と一息つく。

「俺、デビュー、決まったの」

電話越しにも空気が止まったのが伝わった。

「やっとだよ……、やっと、デビューできる……」

ふっかさんは確かにファンの前で泣いた。でもあの後、無様な姿を見せてしまったと後悔していたはずだった。そんな人が女性と思われる特定の相手の前で気兼ねなく泣ける。受話器を通していても親密な関係なのが伝わる。

「お前には沢山励ましてもらったよ。辞めたくなったけど、お前に喜んでほしくて頑張ってこれたのよ……」

俺は動けないでいた。ふっかさんの見たことのない姿をこの目に焼き付けていた。

「ありがとう。本当にありがとう。感謝してもしきれない……」

Aさんとやらの正体や反応こそ分からない。

「おぉい……、Aまで泣くなってぇ……」

でもふっかさんの辛い時期を支え、今も支えていることだけは明確だった。