彼らの知らない私 ページ27
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高校3年生の新学期が始まる日、通学中の電車に見慣れない男の子が乗ってきた。うちの高校の制服に身を包んだ彼は陰気臭く暗そうで背丈はそれほどなさそうなのだけど、彫りが深く、目が大きくアンニュイで唇が薄い正統派のイケメンだった。
『あの……』
見た目の華やかさを暗さで打ち消している彼がやけに気になった。気づけば彼の隣に座り、話しかけていた。
『日出高校の方ですか？』
「そうですけど……」
彼はピクリと肩を震わせた後、警戒心を持って身構えた。当たり前だ。突然見ず知らずの女子高生に話しかけられたのだ。
『実は私も日出なんです』
普段の私なら怯んでいたと思う。でもその時は怖気付くこともなく、警戒心を解くために慎重に彼に近づこうとしていた。
「君も？」
『はい。まさかこの路線で知ってる制服を見かけるとは思わなくて……』
学校名を伝えると彼は少し安心したように顔を綻ばせた。
「そうなんですね。何年生なんですか？」
『3年生です』
「えっ、同い歳じゃないですか」
思わぬ共通点。2人して目を丸くする。
「俺も実は3年生なんです」
『じゃあ同じクラスになれるかもしれないですね！』
「いや、それはないと思う」
彼は表情を曇らせた。
「大声じゃ言えないけど、俺今年から芸能コースに転入するんです。だからなかなか会えないんじゃないかな……」
『会えますよ？ 私も芸能コースだし』
「え？」
薄々感じていたけれど、彼はどうやら私を知らない。だからこそ話しやすかった。私もまた彼を知らない。でも同じように芸能のお仕事を頑張っている。
『藤井Aです。これから1年間よろしくお願いします』
「あっ、えっ、俺今まで藤井Aさんと喋ってたんですか？」
『んはっ！』
彼は大きな瞳をさらに大きく見開いた。電車の中だから静かではあるけれど、少しテンパっている彼は可愛らしかった。
「あの、吉沢です。吉沢亮って言います。こちらこそよろしくお願いします」
『うん、よろしく。せっかく同じクラスになれそうだしタメで話そうよ』
「わ、分かった」
こうして私は先生から紹介されるよりも前に転校生の存在や名前を知ることになった。
『私、委員長とか王子とか呼ばれてるの。好きな呼び方で呼んで？』
「分かった。じゃあAって呼ぶ。Aも俺のこと呼び捨て呼んで？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
