Time goes by 5th (ページ16)

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つい何分か前まで萎えていた俺は心の奥底から笑いが込み上げそうだった。やっぱり思考は停止してはいけない。

『いい、いい！マジで来なくていい』

「なんで冷たいこと言うの！絶対来てやる」

『こっちが引っ越してやらァ』

エレベーターに乗り込む。Aさんはふっかさんの住む階を押した。

「なんか、2人とも仲良いっすね……」

佐野くんの口ぶりや仕草、Aさんの気の許し方から察していたものの、2人は本当に仲がいい。

「仲は良いよ。だってAは俺が事務所に入った時からずっと気にかけてくれてるから」

「え？事務所？」

仲が良すぎて俺は置いてけぼり、忘れられがちでつい拗ねそうになる。2人や俺と佐野くんには壁がないけれど、Aさんと俺にはまだ薄いフィルターで壁が遮られているというのに、だ。

『もしかしたら目黒くん知らない感じ？私と勇斗は事務所が同じなの』

「あ、そうなんすか！？」

共演歴ばかりを調べていたから事務所のことは完全に盲点だった。やっと疑問が晴れた。

『私が夏帆ちゃん達と顔見知りだったのはそういうことなの』

「そうなんすね……」

そういえばsilentでの撮影で紬の弟役、恋のライバル的存在の夏帆さんとAさんは最初から意気投合していた。この時も俺は複雑な思いを抱きつつ、耳が聞こえなくなった想として1人殻にこもった。

Aさんがいくら声をかけてくれようが、Aさんとの交流は極力控えていた。本当はすごくありがたかったけど。撮影が進むにつれて仲良くなっていけたけど。

『うちの事務所はいくつかの部門に分かれてて、夏帆ちゃん達とは違ってるんだけど勇斗とは一緒だからよく会うんだよねぇ』

「へえー。マジで知らなかったっす」

エレベーターはふっかさんの住む階へ運んでくれた。

『本当生意気な後輩だよ、佐野勇斗は』

「先輩やめてくださいよー」

『その言い方がもう生意気だよね。絶対先輩だって思ってないもん』

俺は勘違いしていたのかもしれない。短時間しか見ていないけれどAさんと佐野くんには男女の仲というよりも、姉と弟のようで色香がない。

「俺は友達だと思ってます」

『勇斗はね？』

2人の取り留めのない会話を聞いているうちにふっかさんの部屋の前に着いた。慣れた手つきで解錠したドアの前に、

「えっ」

ふっかさんが待っていた。