Time goes by 3rd

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『聖也は覚えてるかな？ このダンスの発表会が終わったら、ふっか達の学年は引退ですよって時の』

「あー、なんか薄ら覚えてるかも」

『その演目の中で1番難しい技に挑戦するってなったんだけど、もし怪我をしてなかったら余裕で決まってた技だったの』

フォーリアっていうんだけどね、とAはスマホで調べ、樟太郎と俺にできなかったという技を見せてくれた。パッと見は簡単そうだけど、Aが難しいというのなら難しいのだろう。


『中3で開放骨折して何回も手術してやっと治ったはいいんだけど、1年以上ブランクあったからアクロバットができなくなっちゃってたの』

Aが怪我をした当時のことはよく覚えている。女の子が病室のベッドで包帯まみれで寝たきりになっている。特に酷かったという左脚は丸々1本真っ白な布に覆われていた。

フライング中の大怪我で多感な時期の一部を、かけがえのない青春の断片を奪われた。許せなかった。Aがいくら許していたとしても操作ミスを犯したスタッフが許せなかった。


『何回やっても上手くいかなくて悔しくて悔しくて。あまりにもできないから振りを変えてレベル落とそうかって話にまでなっちゃってねぇ。悔しすぎて泣いちゃったんだよね、体育倉庫の跳び箱の影に隠れて』

「懐かしっ！ 藤井が戻って来ないってなったやつ」

『誰にも見られたくないから見つかりにくい場所で泣いてたの』

負けず嫌いなAは決して弱音を零さない。重荷を重荷とも思わない。付き合っていた時も俺は甘えたい時に甘えてほしい、辛い時は辛いと言ってほしいと再三伝えた。

それでもAは一向に思いの丈をぶつけなかった。


『休憩終わっても戻って来ないから皆が探してた。その時に見つけたのがふっかだったんだなぁ』

俺の知らない空間で営まれた青春が傷を抉る。


『あの人ただ黙って背中撫でてくれてさ。落ち着くまで隣にいてくれたの』

「それは好きになっちゃいません？」

『ならなかったんだよね。でも信頼は深まった』

年の差を乗り越える。そんな心意義がなんの意味もなさなったことを彼女や聖也から感情を持って突きつけられる。


『辛い時は辛いって言っていい、甘えていいって言われると、俺らみたいな人間は逆に言いにくくなるよなぁって言ってくれたの。その言葉があまりにも的を得てたからまた泣いちゃって』

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