意識 ページ43
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離れがたい。時間が許すならずっと一緒にいたい。付き合うだけでこんなにもAの存在が愛おしくてたまらなくなるなんて、親も先生も誰も教えてくれなかった。
『ねえふっか』
「ん?」
『恥ずかしい……』
俺は歌舞伎、Aはミュージカルがあってまとまった時間を取るのは難しい。でも時間があるとどちらかの家にいる。付き合い始めてからずっとそんな感じだ。
「何? Aって結構ウブ?」
友達みたいなカップルでありたいけれど、男女がそういう仲になるというのは身体的な関係が避けては通れない。今日は一緒にお風呂に入ろう。ダメ元で提案すると意外にもいいよ、と返ってきて俺たちは今、湯を貯めた浴槽の中にいる。
『ウブかどうかは知らないけどこの状況は恥ずかしい』
いいよ、と言ってくれた割にはAは三角座りで身体のほとんどを隠す。火照りのせいか恥ずかしさのせいか、その頬はほんのり赤い。
お湯に濡れた長い髪は1つに束ねられる。時折後れ毛から雫が滴り落ちて、湯船に小さな波紋を広げる。
『だってふっかと照が2人で温泉入ってるんじゃないんだよ? 目の前にいるの女の子ね? しかも家のお風呂』
「見れば分かる」
『……嫌じゃないけど、恥ずかしい』
そう言ってそっぽを向くから、俺はたまらなく愛おしくなった。恥ずかしさが伝染して自分まで我を失いそうになる。この後はベッドで……、なんて考えている自分が下心に塗れた馬鹿な男に思えてくる。でも本能はそう簡単には制御できない。
「お前本当に脚綺麗ね」
俺は女の子の生脚が好きだ。夏になって脚みせスタイルのボトムスを着る女の子をつい見てしまうくらいだ。
『ふっかって本当に視力悪いんだね』
全然綺麗じゃないよ、とAはしょんぼりと眉を下げた。
『私手術してたじゃん』
「ああ、そんなこともあったな」
『まだ残ってるよ。よく見たら白い筋になってる』
ほら、とAは左脚のふくらはぎを俺に向けた。傷跡は見えない。でも傷跡を見せた弾みで胸元が開放される。男とは違う大きな膨らみ2つは目の前の女を女として意識するには充分だった。……こいつ、隠し持ってやがる。
「よく見ないと分かんねえし、俺はそれよりお前の胸が気になって仕方がねえよ」
『……! バカ!』
「うわっ!」
Aは勢いよく湯船のお湯を俺にかけた。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年3月3日 22時