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半年前からつい最近まで出演していたミュージカル。今まで出演したどんな作品よりも辛い。マルグリットとしてフランス革命下の混乱を生きていた時期だった。
『そいつね、私がメンタル壊れかけた時に誰よりも近くで支えてくれたの』
役にのめり込むがゆえに自分が分からない。笑い方って何? 泣きたくないのに突然泣けてくる。辛い、苦しい以外の感情が出てこない。よく眠れない。眠れたとしても悪い夢を見る。そのせいで余計に寝れなくなる。でも眠らければ体力は戻らないから薬に頼る。食欲も落ちた。稽古中はエンジン全開でも、それ以外が充電がなくなったように落ちる。
痩せたりクマができたりと、周りから見ても心配になるほどの変化だったらしい。
「うん」
『寝る前に毎日電話してくれてね。素直に言えないけどありがたかった。自分を見失いかけたけどそいつが見つけてくれた。演技してる時は辛かったけどそいつがいるから頑張れた。演劇大賞の最優秀女優賞が発表された時も1番に連絡してくれた。それだけでも嬉しかったのにね、プレゼントまでくれたの。見てよこれ』
私は両耳をふっかに見せる。
『こんなの意識しちゃうよね』
ふっかは各部門の最優秀賞が発表されて少し経った頃に、婚約指輪にも選ばれるようなジュエリーブランドのイヤリングをプレゼントしてくれた。
コマドリの鮮やかな青色の卵が由来になったというブルーの袋を渡された時、あまりにも驚いて1度は受け取るのを躊躇った。
「そいつ、ベタ惚れじゃん」
ふっかは頬を赤らめて照れている。
『どうやらそうみたい』
「お前はさ、男がピアスとかイヤリングをプレゼントする意味分かる?」
『分からない』
本当は嘘だ。調べてみてハッとした。これでふっかの想いを確信したようなものだった。
「いつも一緒にいたい、自分の存在を常に感じてほしいって意味らしいぜ?」
『そうなんだ』
「でもお前、自分からは好きって言うつもりないよな?」
『ない』
「相手も言わないんだろ? Aに言わせたいやつなんだろ?」
『そうだよ?』
「……どうすんの。お互い言わなくて曖昧な関係が続きそうなら」
ふっかに聞かれたら迷わず答えようとしていた。その質問を待っていた。
『やめるよ。会うのも電話するのやめる』
これは私の賭けだった。ふっかから想いを引き出すための。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年3月3日 22時