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そもそも彼は私に別の彼氏がいること自体が悲しいようだ。言葉には出さなくても態度や表情で感じる。
「ああ、彼氏か……」
一応長年付き合ってきた経験から、彼に哀愁が漂っているのがよく分かる。
「どんなやつだっけ、Aの彼氏って」
『高校の1つ上の先輩です。元々親友だった人ですね』
悪い人じゃない。別れてからは2人きりで会うことはなくなったけれど、共演した作品のカンパニーの一員として食事会で顔を合わせて演技について語り合った。
役者としてストイックに役に入り込む。突き詰める。上演が始まってからも常にアップデートを試みる姿には尊敬だ。相変わらず聞き上手で、じんわり心に響く面白い発言も変わらない。
「親友ねえ……」
でも恋の話題になれば話は別だ。彼の大きな目が途端に物思いに耽る。彼はどうやら私と別れてから彼女を作らないまま、今までやってきたようだ。
「そっか。歳が近い男と付き合ってるんだね」
『はい。というか、この話小西さんの前でやるの気まずすぎません？』
「俺が聞きたいからいいんだよ。ドMみたいだけど」
彼はクシャッと目尻に皺を寄せた。彼と別れてからもう6年の月日が経とうとしている。別れた当初は嫌いを通り越して無関心だった。彼の涙にも興味がなくなるほどだった。
でも長くて短い時間が解決してくれたことは多かったように思う。
「だってさ、もう時効じゃん。俺が言うべきじゃないけど」
『本当ですよ！ 小西さんが言っちゃダメですよ？』
「厳しっ」
話についていけないらしい元木は戸惑いながら話を聞いている。
『でも私もすっごく子供だった自覚はあるし、今考えると小西さんが全部悪かったとは思えないんですよね……』
別れてすぐの頃は連絡も取りたくなかった。未練1つなく決別したとさえ思った。別れてから半年経った頃に共演した作品のカンパニーでご飯を食べに行った時は億劫だった。互いに気まずくて会話が続かなかった。
「いや、俺が悪いんだよ。俺が悪い」
ヒロキさんは意思の通った声でそう言った。
「Aの言う通りだったから言い返すことなんてできなかった」
ねえA、とヒロキさんは白と黒がはっきりとした丸っこい瞳を向ける。
「少し話したいことがある。できれば2人で話したい」
『……分かりました。2人になれる場所で話しましょう』
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月3日 22時
