Time goes by (ページ29)

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いい作品にしたい。作品の一部として燦然と輝きたい。その時のAちゃんも強い気持ちで役作りに取り組んだ。主演の1人として、与えられた役を必死に追い求めていた。ただ、確実に心をすり減らしていた。

「目黒さ、想像してみ？」

ふっかは美味しそうにスコーンを頬張る彼女を愛おしそうに見つめる。

「役作りとはいえ好きな女が目に見えて弱っていくわけ。全然笑わないし笑っても引き攣ってるし、瞼にクマはできてるし元々細いのに会う度痩せていくんだぜ？耐えられる？」

「笑わないのは百歩譲っても弱っていくのは……、耐えられないかも」

「消えてなくなるんじゃないかってくらいだったの、この子の場合は」

『過去にも先にもパンパンになるまで口にご飯を詰められたのはあの時だけだったなあ』

数年前、ふっかの荒んでいた私生活に物言いできたのはAちゃんだけだった。

「寝れないなら俺に電話しろって言ってみたりね」

『結局あれは辰哉くんからしてきたんだよね？』

「そうそう。お前全然頼ってくれないから俺が電話繋いで、寝落ち電話とかしてたわ」

「え、尊い」

同じようにAちゃんが弱っていた時に主に精神的に支えられたのもふっかだけだった。高校時代から仲のいい親友として接してきたからこそかっこ悪い部分をさらけ出せる。

『それこそ高校の時に、夜中に深澤からの電話に出ちゃダメって言われてたらしいの』

「なんでですか？」

『辰哉くんっていい声してるじゃん？夜に電話で話すと余計かっこよく聞こえて好きになっちゃうかもしれないから、電話に出るなって噂になってたんだって』

「誰から聞いたんですか？」

目黒は目尻にクシャッと皺を寄せた。

『卒業してから辰哉くんに聞いた。私はそんなの知らなかったけど』

「マジなんだって！」

『分かったから。こんな感じだから高校生の時も大人になってからも知らずに出てたんだけど、弱ってる時に電話越しで辰哉くんの声聞くと確かに5割増しでかっこいいのね？特に深い話をするわけじゃないけど、ただただ話してるだけですごく楽しかったの。気づいたら時間が経ってた。その作品に取り掛かってから全然寝れなかったのに眠れるようになったし、笑えるようになった』

Aに助けられたから今度は俺が助けたい。ふっかはあの時もAちゃんに本気だった。