Time goes by (ページ18)

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『別れるように見えなかったと思うけど、私だって振るとは思ってなかったよ？』

Aは苦笑いしながら烏龍茶のグラスを煽った。

『……去年の夏、覚えてる？』

去年の夏、Aの彼氏が週刊誌に熱愛を撮られた。よりによって相手はAではなく、彼世代の共演者の女優だった。

「週刊誌の話？」

『それそれ』

「……Aちゃん嫉妬してたの？」

阿部ちゃんはコテンと首を傾げた。

『嫉妬は断じてしてないつもり。でもしたのかもね。あの時初めて年齢の壁を感じちゃったし』

「でも許したんだろ？」

『うん、許した。許したけど、あの時から少しずつ気持ちが離れたのかなって今は思ってる』

大人っぽかったAを本物の大人の世界へ連れ出した大人の男。

「やっぱ浮気がしんどかったの？」

照は悲しそうに眉を下げた。あの時A以上に憤っていたのは照だ。

『あれ皆にも週刊誌の捏造だったって言ったし、お相手の方もきっぱり否定してくれたから浮気ではなかったの。私が違和感あったのはそこじゃないんだな』

唐揚げ冷えちゃう、とAは湯気の立つ鶏ももの唐揚げを頬張った。ひとしきりモグモグ咀嚼し、ゴクリと飲み込む。

『……ふっかと照は経験者だから分かると思うけど、週刊誌って事前に記事を載せること連絡するでしょ？何月何日発売でどんな内容が掲載されるかって』

急に鋭利な刃物を突きつけられた気分になった。それは照も同じで苦虫を噛み潰したように顔を強ばらせている。悔しいけれどAの言う通りだ。

週刊誌は律儀にスクープの掲載情報をこちらに寄越す。Aが彼氏と付き合い始めた頃、俺はアイドルとの交際を撮られてマネージャーからこっぴどく叱られて別れた経験がある。

『恐らくヒロキさんも事前に教えられてたと思うよ？でも私、ヒロキさんからそんなの聞いてなかった。
初めて言うけどさ、何で知ったかって彼の友達……だから先輩の俳優さんだね。先輩からAちゃん大丈夫かってLINE来て、そこで初めて知ったんだよ？』

珍しい。Aがヒートアップしている。

『おかしいよね。疚しいことは何もないのに隠してるって。しかも世の中にばら撒かれて絶対にバレるのに』

「……それが、A的には許せなかったわけか」

『そういうこと』

Aは再び烏龍茶のグラスに口をつけた。