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「着いた」

2年生が勉強するのは3階の教室だ。私達の学校は何年か前まで女子校だったらしい。今は共学だけど、女子生徒の多さに名残を覚える。

『ラーメンさんどんな人なんだろう？』

「ふはっ、ラーメンさんって。深澤だよ」

2年生が過ごす教室前の廊下を女子向けデザインのリュックを腹に抱えた1年生と、左脚のふくらはぎが包帯でぐるぐるに覆われた1年生が歩く。

『深澤？』

「そうそう。言ってなかったね。今から会うのは深澤辰哉って名前」

2人で話していると1番奥の教室からおーい、と大きく手を振りながら男子生徒が窓際から顔を出した。

「あいつ」

色白で目は切れ長、唇が厚め。照も華奢だけど、身長の影響もあるのか深澤先輩はさらに華奢な印象を持った。

「あいつがふっか。俺ら盛大な祝福を受けてるよ」

『あの人がラーメンマン……』

人気の少ない放課後は廊下も閑散としている。それが芸能コースともなるとより静かだ。

「ふっはっ！一生ラーメンから離れねえじゃん！」

「待って、照、何を教えたら俺がラーメンになるの？というかどこからラーメン出てきた？」

”ふっか“と呼ばれる先輩こそが照が紹介したかったという深澤辰哉先輩だった。照はラーメンの理由を秘密にしていてくれた。

「初めまして。深澤辰哉です。藤井さんだよね？」

『はい。こちらこそ初めまして、藤井Aです』

「いいよ、そんなに改まらなくて。照の親友ならさ、ふっかがいいしタメで話そうぜ？」

背丈は私とそれほど変わらない。少し高いくらいだ。でも照と比べると華奢に見えるだけで、近くで見るとがっしりとしている。

「俺さあ、Aちゃんと照のピーターパンを客席から観てたのね？だから照が同じクラスになったって聞いてびっくりしちゃって。ずっと会ってみたかったのよ」

「俺が話したらラーメンが会わせろってうるさくて」

目の前で阿吽の呼吸で会話が進んでいく。

「ラーメンじゃねえよ！」

「でも顔デカいじゃん。ラーメンの器みたい」

「バカ野郎。モテモテの深澤くんにラーメンだ顔デカいだ言えるのAちゃんと照くらいだぞ」

『……ふふっ。私は顔デカなんて言っとらんよ？』

初めて会ったのに初めて会ったようには思えない安心感がふっかさんにはある。柔らかい。

この日から、辰哉くんと私の時間が動き始めた。