はじまり ページ1
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「A、紹介したい人がいるんだけどいい?」
全てはここから始まった。
『いいよ。どんな人?』
「Aはさ、俺がJrのグループに入ったの知ってるよね?」
『知ってる』
「そのメンバーで俺らの1個上の先輩。同じ学校なんだよね」
高校1年の春、進学したての私は岩本照という幼馴染のような男の同級生と一緒にいた。
彼とは中学1年の夏にミュージカルで共演し、同い歳ですぐに仲良くなった。3年ほど疎遠だったけれど学校もクラスも同じになったのをきっかけに再び打ち解けた。あの頃からお互いに呼び捨てだ。
『へえー』
「すげえいい奴だしAもすぐ仲良くなれると思うよ? ちょっとナルシストだけど」
『ナルシスト? ラーメンつけ麺僕イケメン的な?』
「ふっはっはっ! そう! そんな感じ!」
照はミュージカルが終わったあと、ジャニーズ事務所のオーディションを受けて合格した。今では歌って踊れるアイドルを目指すアイドルの卵と言ってもいい。デビューを夢見て日々鍛錬に励んでいる。
「とりあえず会いに行こうぜ。あいつ待ってるから」
身長が高く、性格は穏やかながら高校生になりたてとは思えないくらいに男らしい。ジャニーズだけど女の子より男の子にモテる照がいい奴だと評する男の先輩。
男たらしではないけれど、純粋に気になった。話は通してあるようで、私は照に手を引かれながら2年生のいる3階へ向かって歩き始めた。
「脚、大丈夫?」
『全然大丈夫じゃないよ、見ての通り』
照は私の左脚を見ながら顔を歪めた。
「じゃあエレベーター使おうぜ」
荷物貸して、なんて微笑んだ照。笑うと目がクシャッと潰れる。そのまま私のリュックサックを手にとって前に抱えた。照は私が何回目かの手術明けなのを慮ってくれる。エレベーターに乗る。
「なかなか治らないね」
『ね。でもプレート取れただけマシって感じ。ずーっと違和感あったもん、骨に異物くっついてる感じが拭えなくてさあ』
「痛い痛い。俺の脚まで痛い」
『ふふふっ』
たった1階、階段で上がるだけでも今の私には相当な苦痛だ。
中学3年の夏、中学生最後の夏に私はミュージカルの舞台稽古中に高所から落下して左脚のふくらはぎの骨を2本折る怪我をした。他にもあちこちヒビが入ったのだけど、その舞台がかつて照と出会うきっかけの作品だった。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年3月3日 22時