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結果的に私は辰哉くんを選んだ。優しさから生まれたような人。どんなことがあっても味方でいてくれる人。
「俺、煽っちゃった」
照はしょんぼりと眉を下げたまま呟いた。
「Aに限ってそんなことないって思ってるけど、冗談のつもりでもしかしたらお前以外の男と2人きりで会ってんじゃないかって」
『そしたら事実だったわけね？』
「……うん。だから俺もふっかもバカみたいに焦った。でもAと元彼が殺気立って練習してるから俺ら荷物番するしかなくて」
『ごめん、荷物狙われてるって言っちゃった』
「ねえ。なんで盗み働くと思うわけ？ 人生終わるじゃん」
小西さんの話になってから照はずっと暗かった。冗談らしく伝えてみれば、強ばっていた表情が和らいだ。やめてよ、と微笑んだ。
「なぜか分かんないけど俺が嫉妬したからね？」
『本当になんで？』
「似合ってんだもん。互いに信頼してる感じとか雰囲気とか」
『それ辰哉くんの前で絶対言っちゃダメだよ？』
しばらく2人で話していると、清々しい表情で辰哉くんが戻ってきた。
「いやあ、すっきりすっきり！」
どうやら思いの丈を伝えられたのだろう。
「あの人マスクしてんのにイケメンすぎない？ 俺見つめられて恋しそうだった」
『……心配なさそうだね』
「な。心配した俺らがバカみてえ」
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翌日の稽古。席に着いて台本を読んでいるととんとん、と肩を叩かれる。色白の長い指に男爪が映える。私が好きだった手だ。
「A」
振り返ると小西さんが微笑んでいた。
『はい？』
「昨日はありがとう」
ふと昨日の出来事を思い出す。自主練の後、結局挨拶もできないまま分かれた。小西さんは既に帰っていた。
「俺が思ってたような結末じゃなかったけどすっぱり諦められそう」
『彼、失礼なこと言ってませんでしたか？』
「全然。負けたって思った」
あの時辰哉くんは何を言ったのだろう。聞いてみたけれど答えてくれなかった。男同士の約束、Aは気にしなくていい、と。
「深澤くん。バラエティ班だと思ったら全然侮れない」
『え？ 分かったんですか？』
「Aがずーっと信頼してきた子でしょ？」
小西さんは涼しげな瞳に寂しさを滲ませた。
「色んなことがあったけどこれからもよろしく」
『はい！』
“Aは俺しか見てないので。諦めてください”
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月3日 22時
