恋のキューピット ページ44
·
コロナ禍が少し、ほんの少しだけ落ち着いたから、久しぶりにふっかの家を訪れた。
相変わらずゲームに熱心で家に友達がいても構わない自由人な男・深澤辰哉。事務所においても年齢においても先輩だけど長いこと一緒にいるから友達を超えたも同然だし、家族のような存在でもある。
「いわもっさん」
「ん?」
ふっかは画面から目を離さず、コントローラーを動かし続ける。
「俺さ、1年前に彼女できたんだ」
「……は?」
己の耳を疑った。
「だから、彼女ができた」
「マジ?」
「マジ。我ながら超真剣に付き合ってんのね? 宮澤さんの時より本気」
懐かしい名前だ。あの時は年上彼女の名前を呼び捨てしていたくせに、別れて随分時間が経つと苗字のさん付けになるらしい。時の流れも心もすっかり手の届かない遠い距離にある。
「でさぁ、今から来るのよ」
懐かしい。なのにふっかは余韻を切った。
「は? 待って、突然すぎるんだけど」
「改まる相手じゃないからいつも通りで大丈夫」
ふっかは苦笑いで画面に目を戻した。
彼女が会いに来る。いくらなんでも突然で何も準備ができていない。気を使いすぎるのは違うけど、メンバーでありながら親友でもある男の彼女が来るのにダメージデニムのスキニーパンツでいいはずがない。
「ねえ、スーツ貸してよ」
「なんでだよ。お前と俺のサイズ合わねえじゃん」
「合わないけど貸してよ!」
「バカ、パッツパツのスーツ姿の方が困るだろ」
焦りすぎて忘れていた。危うく無様な姿を見せるところだった。そうなるとTシャツにダメージデニムで出迎えるしかない。
「驚くよ。多分SnowManだと照が1番ビビる」
意味深な言葉を残したまま、ふっかは三度画面に視線を戻した。
落ち着かないままどれくらい待っただろう。しばらくスマホを弄り、イヤホンを耳に挿して動画を見ていると突然視界が遮られた。
「え、何!?」
「ちょっ! お前どういう登場の仕方してんだ!」
離れろ、とふっかが焦っている。あはは、と女の子の笑い声がやけに響いた。
『帰って来たんだからまずはおかえりでしょーが!』
「おかえりだけど! 彼氏は俺なの! 分かる!?」
『分かってるよ』
俺を置いてけぼりにしたまま、目隠ししたまま2人は小さな喧嘩を始めた。
『分かってるから来たんでしょ? 合鍵使って入ったんじゃん』
844人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年3月27日 21時