Time goes by 2nd (ページ29)

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怪我をして誰かに心配させたくない。Aはかつて負った大怪我で沢山の人達に不安や心配を与えてしまったのを気にしている。出会った時のAは左脚のふくらはぎが包帯でぐるぐる巻きになり、松葉杖を使って歩いていた。

俺もAが怪我をした時のことはよく知っている。

中学3年生の女の子がフライング中の事故で重傷。怪我の内容も凄惨だった。舞台上のあの子が空を飛べなくなった。母親がニュースを見ながらショックを受けていたのを覚えている。

本当は風呂で団欒するつもりだったけれど早く上がってタクシーを呼んだ。Aは自分で運転する、なんて言っていたけれど、さすがの俺だって怪我人に運転させようなんて思わない。ましてや俺は運転免許証を持っていないから送り届けることができない。

タクシーに揺られて着いた病院の外で、俺はAが診察を終えるのを待つ。思っていたよりも早く戻ってきたけれど心配は尽きなかった。

『軽い打撲だって。また明日詳しく見てもらうことになった』

Aは今日を過ごすための湿布を持っている。

『範囲は広いけど今の所は大丈夫』

「そっか……」

俺達は手を繋いで再びタクシーに乗り込んだ。

またしても左脚だった。太ももの付け根にできた10cmほどのアザ。大丈夫と言う割には大きすぎやしないか、と思った。視力が悪い俺が裸眼で見ても気づけるほどだったから痛くないはずがない。

現にAは痛みを訴えたわけで、すぐに消えたとしても心配だった。

『ちょっと腫れがあるから、とにかく今日は冷やしなさいだって。嫌だよねぇ、こんな寒いのに』

「よし。帰ったら氷準備するから絶対安静な」

『湿布貼るから大丈夫』

「じゃあ俺が貼る」

『自分で貼れる』

「なんでよ。頼ってよ」

『嫌だ。そこ頼らせるの下心しかないもん』

運転手はとても成人済みの大人とは思えない会話を聞いているのか、肩を震わせていた。

「なっ！下心は2割だべ！？残り全部心配よ？」

『あるやん。怪我人に対して2割も下心あるやん』

「いや、Aさん？ 2割しかないのよ？ 2割も、は盛りすぎ」

ちゃんと心配している。だから時間外診療で病院に連れて行った。どっちにしろ明日再び診察を受けるのだから、今日の俺の判断は重かった。

重たかったかもしれない。でも俺の心配の大きさをAには理解していてほしい。