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この世で1番辛いのは諦め。いつだったか舘さんはそう言った。
「気づくんだよ。好きな子の好きな奴がメンバーだって。しかもそいつも好きで、いつか付き合う雰囲気を出してるのが分かるんだよ」
舘さんはどんな気持ちでAを諦めたのだろう。もし舘さんの想いに気づいていたら、きっと俺はAを譲っていたと思う。2人が付き合えるように動いていたはずだ。
でも舘さんは気づかせなかった。今、カミングアウトをするまで一切表に出さなかった。
「今まで黙ってたのは、ふっかに譲られたくなかったからだよ」
「……俺に？」
「ふっかは優しすぎるから、どんなに好きでも俺と被ってるって気づいたら絶対に譲ったでしょ？」
図星だ。頷くしかなかった。
「それじゃダメなんだよな。それじゃあお嬢が幸せになれない」
「Aが？」
「もし付き合えてたとしたら全力で幸せにするつもりだったよ？ でもお嬢が本当に幸せそうなのはふっかといる時なんだよ。ふっかと話してるお嬢、恋する女の子って感じで正直すっごく可愛い。よく笑うし甘いし。
俺にはそういう顔をさせられない。だからふっかに気づかせないようにしてたし、誰にも知られないように諦めた」
時効だからね、と舘さんは念を押した。
「今この話をできたのは俺が吹っ切れたから。間違ってもAと別れて譲ろうなんて考えないでね？ 正々堂々勝負しなかった俺が言えたもんじゃないけど」
その声には情熱が込められていた。
「……譲るもんか」
当然、Aの隣は誰にも譲らない。たとえメンバーであろうと。
数年前からロイヤルだと持て囃される機会が多くなった。でも俺達は知っている。舘さんは上品さの裏で情熱を強く燃やす。寡黙だけど誰よりも熱い男だ。
熱すぎて何度もぶつかったけれど、その度に互いの相反する意見や価値観を持ち寄って分かり合ってきた。だから俺達は15年近く一緒に頑張ってこられている。
「涼太かっこいいな……」
翔太が尊敬の眼差しで見つめている。
「恋は叶わない時があるから輝くんだよ。俺ができるのはふっかとお嬢が幸せでいてくれるのをそばで見守って、祈ることだけだから」
「舘様も絶対に幸せになろうね」
阿部ちゃんはそっとフォローする。
「ありがとう」
俺は改めて彼女を想った。色んな人から愛されすぎだ。でも誰からも慕われるAが好きだ。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
