Time goes by 2nd (ページ19)

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水にさらした千切りキャベツはAが持ってきた木目調の小さなボウル2つに均等に分けられる。缶詰のコーンやツナのプルタブを少し引き抜き、ひっくり返してシンクに引っかける。水や油が流れて使いやすくなるらしい。

『ふっかってトマトときゅうりは食べれる？』

「食える」

キャベツの上にプチトマトが2個ずつ、薄く斜めに切られたきゅうりが3枚ずつ盛り付けられる。箸を使って丁寧に。

細長い指を見れば、確かに炊事をしている人の手をしていた。ところどころが切れているのか絆創膏が貼ってある。小さい傷はもはや放置しているようで気に留める様子もない。

「ねえ」

『ん？』

「指、痛くねえの？」

『痛い感覚忘れちゃった』

そういえばうちの母親もそんなことを言っていた。白い手には包丁で切ってしまったり、寒さのせいでパックリ割れてしまったりしてできた傷がいくつもあって、やはり絆創膏を貼っていた。

ささくれなど傷じゃない、と言わんばかりに水にさらして家事と炊事を毎日こなしていた。

「クリームは？塗ってんの？」

『塗ってるよ？水で流れちゃうけどこまめに』

本人にその気はなくても痛い思いをしながら俺のために温かいご飯を作ってくれる。

『消毒もしてる』

掃除が苦手な俺のために一緒にやろう、と手伝いつつ鼓舞してくれる。ドライブに行きたいのに車の免許を持っていない俺のために車を出してくれる。

『じゃあカレーも盛りつけようか？』

Aと付き合ってから、俺のために何かをしてくれることのありがたみを強く感じるようになった。ご飯を食べるのも、掃除をするのも楽しい。Aの車に乗るとなぜか安心できなくて目が冴えていたのに、最近とうとう眠れるようになってきた。

「俺やる」

『ん？』

「俺がやるからAは休んでて？」

2人で過ごす時間は心をも満たす。1人で食べる即席のご飯は美味しいけれど、俺のために作られたご飯はもっと美味しい。

「俺が食べたいのにお前にばっかやらせるのは気が引けるっつーか……」

でも俺のために誰かが何かを作ってくれることは当たり前じゃない。

「とにかく！その痛々しい手を見るのは俺が辛いの。少しでもいいから休んで治せ！」

素直じゃない俺を理解してくれるのも当たり前じゃない。Aは一瞬ポカンとしながらもありがとう、とタオルで手を拭った。