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俺の話を静かに聞いていた康二はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「ふっかさんも好きな子思って悩むねんなぁ……」
「あったりめえよ」
雑誌で自分の恋愛を語る俺は見せかけで、本当の俺は一切合切余裕がない。最終的に俺に戻って来てくれると信じていても、Aが携わる作品が恋愛物の時は心配になるし相手役に酷くヤキモチを妬いてしまう。
ドラマが終わって数ヶ月経ってもAとめめがお似合いだと目を輝かせるファンがいると、その子の彼氏は俺なのに……、と拗ねそうになる。
「結構真剣にさ、結婚も考えちゃってるし」
「Aさんのドレス綺麗やろうなぁ……」
「勝手に想像すんなよ」
「なんでやねん。目の前にウェディングドレス姿のAさんおんねんから想像もするやろ」
これ、と康二が指を差す先には表紙のAが穏やかに笑っている。日本全国でこの笑顔に魅了される男がいると思うといい気持ちにはならない。俺は自然と雑誌をトートバッグに片付けていた。
「……なんつーか、俺のこと理解してくれるのはAしかいないと思うのよ」
「おん」
「俺とAさ、高校一緒なのよ」
康二は静かに俺の話を聞いてくれる。関西のノリを封印して茶々を入れようとしない。
「本当偶然だったんだよ。照がジャニーズ入る前に子役やってて、その時に出た舞台でAが主演やってて、俺は客席から見てた。数年後に高校が一緒になった時は俺から出会いを求めたし、照も俺に紹介したかったって言ってくれて。すぐに仲良くなった」
「すごいな。運命やん」
「運命なんだよ」
あの時は感じなかったけれど。
「そこから10年は親友だったから、俺のこと知り尽くしてるわけ」
俺の女癖が悪かったことも。過去の彼女達も。デビューできずに年月だけが過ぎて、事務所を辞めて就職しようか悩んでいたことも。
「ふっかさんとAさんって親友からカップルになったパターンやねんな？」
「そういうこと」
「知らんかった……」
「だからこそ思うんだよ」
Aが俺を知り尽くしているように、俺もAを知り尽くしている。
実は仕事以外では普通の生活に憧れがあること。20代のうちに結婚し、最低でも1人は子供を産んで家庭を築きたかったこと。俺では叶えられなかった。
「あいつの願いを叶えるためには、俺が身を引くべきなんじゃないかって」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
