師匠と姉御 ページ1
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「いやあ、師匠と姉御がカップルっていつ見ても慣れないっすね」
『私はその姉御呼びに慣れないよ』
俺達が“師匠”や“姉御”と呼ばれるようになったのはいつだったか。気づいた時にはそういうあだ名がついていた。
「もう10年以上姉御呼びなんすけど」
『マジでやだ。Aでいいのに』
「今さら変えれねえっす」
今変えたら師匠に睨まれるんで、と目の前の後輩は俺を一瞥してからかうように笑った。
田中樹と藤井A。2人の出会いは10年以上前に遡る。俺とAが高校生、樹が中学生だった時に上演された舞台での共演がきっかけだった。ヒロインとして沢山のジャニーズと関わることになったAは、当然のように輩の注目を集めた。
『じゃあ練習しよう』
「え？ 練習？」
『Aって呼ぶ練習』
「A、樹の言いやすい呼び方でいいじゃん」
アイドルがどうなんて関係ない。舞台はドラマと違い、キャスト間の心の仕切りがほとんどない。稽古を含めて約4ヶ月のもの間、毎日会うだけでも濃密なのにAは2度も経験した。世代が被る奴らも多い。
『そうだけどさあ』
「師匠と姉御。かっけえしそのままでいいよ」
「師匠ナチュラルに牽制するのやめません？」
当然ジャニーズの中にも知り合いが何人もいる。
『今の牽制なんだ？』
「バリバリしてたじゃないですか」
その中でもAと仲がいいのは13年前の新春公演に出ていた樹だ。
「多分今嫉妬メラメラですよ。俺とAさん仲良くしてるから」
『ほお……』
錚々たる面々の中で樹は特に懐いていた。
「言うて師匠って嫉妬深いじゃないですか」
「おい」
『ああー、確かに』
「Aも納得するんじゃないよ」
「雑誌とかで俺嫉妬しませんよー的な雰囲気出しながらちゃんと牽制してくるし」
『そうなの？』
狙っている後輩がいるのも知っている。その度にAはお前達のような下心しかない男に靡くようなヤワな女じゃない、と釘を刺してきた。先輩にもそれとなく意見した。
「え、自覚なし？ もしかして師匠、今までバレないようにしてました？」
Aが好きなのは信念を持って一生懸命頑張り続ける人間なんだと。簡単に落ちる女じゃないと。Aと樹の視線が刺さる。
「……そうだけど。悪いか？」
「うわ、開き直った」
「バレたからにはガッツリやるかぁ」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
