大丈夫なんかじゃない_3 ページ10
「…それ」
「処分しておこうと、...思う」
優也が持っていたナイフだ。
教官にバレなかったのは幸いだったと、
景光をはじめ、降谷たちは少し安堵していた。
「優也くんのことも…、本当に心配…だし、俺も...行きたいんだけど、2人もいないと、さすがに誤魔化すのは難しいだろうし、…さ」
景光は真剣な顔で、松田に小さく頷いた。
「まぁ、諸伏のことも何とか誤魔化せるかもしれねぇし、
…俺は、ペナルティが追加されても別に構わねぇんだけどよ。
マズいことになったら、…桜庭ちゃんの方が、…多分しんどいだろ」
「…萩」
ずいっと、彼のコートを松田の手に押し付けるようにした萩原。
松田は、彼の言っていることが良く理解できて、
Aのことを思い出して、
やりきれないように視線を逸らした。
「藁にも縋る思いだったんだろうけど、さっき彼女は、…松田を頼ったんだ。
桜庭さんたちが心配なのは僕たちも皆同じだ。でも、今は松田が傍にいた方が良いと思う」
目を細めて静かに松田を見やった降谷。
周りにいる萩原も、景光も、伊達も、皆同じように小さく頷いていた。
優也がいなくなったと、Aは必死で縋るように松田の腕を掴んだ。それは、彼らが初めて見た、誰かに助けを求めるAの姿だった。
「…お前ら」
「あれ?もしかして、迷惑かけちまった…とか、珍しく考えてんじゃねぇ?陣平ちゃん?」
少し声色を変えて首を傾げた萩原。
松田は我に返ったように一瞬言葉を呑んだ後、
「う…、うるせぇ…!!」
と、乱暴に反論し、萩原から奪うようにしてコートを受け取った。
「陣平ちゃんがさっき捜査一課の連中に言ったことは、俺たちも...思ってることだからよ。
ごちゃごちゃ考えてんじゃねぇよ。…な?」
旧来の親友は、やはり何でもお見通しのようで。
松田は少し気恥ずかしそうに仏頂面で唇をモゴモゴさせると、
「…悪ぃ!鬼公には適当に誤魔化しといてくれ!」
と言って、タイルに少し足を取られながら、走って風呂場を出て行った。
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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時