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甘くて、しょっぱい_2 ページ18

しばらくするとフロントガラスに小さな水滴がいくつか落ち始め、
車は米花デパート近くの路地に辿り着いた。


『あ、…すぐ、戻るので』


デパートの駐車場に入る必要はないという意図か、
運転席の小嶋を見やるA。


「分かりました」


小嶋は停車位置を探しながら、車のスピードをゆっくりと緩めた。



車内で1度2度言葉を交わした後、
黙ったままの優也に声をかけようとしたAだが、


『…ッ』


彼はシートに背を預け、いつの間にか目を瞑っていて。

少し心配そうにその顔を覗き込むと、
聞こえてくるのは規則正しい呼吸音。
優也の無防備で疲れたような顔にAが目を細めたと同時に、
車が静かに停車し、そして、肩にじわりと重力がのしかかった。


「では、この辺りで待っていま――」


後部座席を振り返り、思わず口を閉ざした小嶋。
姉の肩に頭を預けて眠る優也の姿は、
安堵を覚えるものでもあり、
小嶋としてはやはり、とても、複雑なものだった。



『す、すみません…。いつの間にか眠っていたみたいで』


小さな声でそう言いながら、Aは、
優也を起こさないようにそっとその肩を両手で支え、元の位置に戻そうとした。


直後、ガタッと少々乱暴な音が鳴り響いた車内。


『…え』


開いたのは助手席のドアで。
外に出たらしい松田のことを気にすることなく、
優也が起きてしまわないかと彼の顔を覗き込んだA。


「…ん」

『あ、…ごめん。起きちゃった…?』


ほんの少しだけ開いた優也の目。
しかし、Aの肩にかかる重力はそのままで。


『…大丈夫だから。優也は、寝てて良いからね』


開いているかも怪しい優也の目を見つめて、Aが優しく微笑んだ。


「…ん」


まどろみの中にいるようで、再び目を閉じた優也に少し安心したAだが、



ガタッ



再び、今度はすぐ近くに聞こえた音と冷んやりした空気に振り返ると、
自身が座る側のドアが開けられていて。




「…用事が、あんだろ。行ってこいよ」



その声とともに、Aの目の前に松田の腕が伸ばされた。

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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時

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