大丈夫なんかじゃない_5 ページ12
「…え、…ま、松田さん…？」
口から漏れるAの声は少し掠れていた。
「弟、…優也は？」
「あ、…今、診察…というか、カウンセリング…を受けていて」
彼女に近づきながら松田が周囲を見回せば、
目に留まったのは”精神科”の文字。
外来診察は終わっている時間ゆえ、
周りには看護師が何人かいるだけで、患者の姿はもうほとんど無かった。
ただでさえ背の高い松田を見上げるAは、
ほんの少し感じるタバコの匂いに軽く目を細めた。
目線を落とせば、彼のズボンの裾から見える靴下が少し捲れ上がっていて。
それをぼんやりとした様子で見つめながら、
『ここに…いて、大丈夫なんですか…？』
と呟いた。
「…は？」
「優也のこと、…本当にありがとうございました。
でも、…すみません。松田さん、…達に、ご迷惑…おかけして。
きっと…、教官から、…処分――』
申し訳なさそうにゆっくりと松田の顔を見上げたAは、ピタリと言葉を途切らせた。
松田がじわりと、表情を変えたからだ。
「…本気で、怒るぞ」
『え…』
険しく眉を寄せ、凄みのある表情でAを睨みつけるように見つめた松田。
「…んなこと、お前が気にする必要がどこにあんだよ」
思わず視線を逸らしたAは、複雑な表情で俯いた。
そうして、黙り込んだAを悔しそうに見つめた松田。
怒りをぶつけたい訳じゃない。
でも、こんな時にも松田たちのことを気にかけるAに、
これまで背負ってきたことが彼女をそんな風にさせているのだと、そう感じて、
強い苛立ちを覚えたのも事実だった。
寮の風呂場で萩原が言っていたことは、
まさにその通りだった。
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作者名：white12
| 作成日時：2023年2月7日 18時
