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大丈夫なんかじゃない_4 ページ11

曇天の下、グラウンドで訓練をしている声が遠くに聞こえたが、
教官に見つかることもなく警察学校を出た松田。


そして、そのまま駅の方へと走り出した。


慌てて履いた靴下は、少し捲れていて。
1月の風が彼の足首を冷たく刺した。





直後、松田はふと立ち止まった。


外したままの腕時計をコートのポケットから取り出せば、針は17時前を指していて。
Aと優也と別れてから1時間ほどだ。


“ちょっと警察病院に行くことになったんだけど”


確か小嶋がそう言っていたなと思い出した松田は、
身体の向きをくるりと変えると、狭い路地へと走って行った。









「…ここ、じゃねぇよな」


警察病院に辿り着いた松田は、3Fのフロアにいた。


優也が入院していた病室の前に来たものの、ネームプレートは既に他の患者に変わっていて。
事件後しばらく警備をしていた警官も、もういなかった。



警察病院に行くという言葉だけでここに来たのは間違いだったかもしれないと、
松田はコートのポケットから白いメモを取り出した。


“A駅 XXホテル 506号室”


小嶋に渡されたメモだ。


先ほど、優也を探して、Aとともに降りた駅の名がそこには書かれていた。
部屋番号まで分かればフロントで追い返されることなくこちらから訪ねていける。



「…やっぱこっちか」


辺りを見回しながら小さく呟いて、階段を駆け降りた松田。


そして、
念の為、と、
2Fのフロアを周囲を見回しながら足早に歩く松田は、一瞬、ほんの少し脱力したようにその表情を緩めた。








廊下の隅。
少し入り込んだところに、その姿を見つけたからだ。
横顔でも、遠目でも、見間違うはずもなくて。



「桜庭…!」



ポツンと1人、患者用の長椅子に腰掛けていたAは、
松田の声にピクリと肩を震わせてゆらりと振り向いた。




それはスローモーションのようにゆっくりとした動作で。



目尻の泣いた痕。
生気のない、疲れたような表情。
コートを着たままでも分かる、一段とほっそりとした身体。



つい先ほども見ていたAの姿だが、
改めて目にしたその様子に松田はヒュッと息を呑み、険しく顔を顰めた。

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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時

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