乾いた音_6 ページ6
しかし、Aは心配そうに優也を見つめたまま、
押し黙っていた。
支えるようにして握りしめた優也の手が、震えているのだ。
思い詰めたように、その表情は暗い影が漂っていて。
警視庁に話を聞きに行くところだったらしいと、降谷はそう言っていた。
そして、警視庁へ走って行った松田と萩原のことが気になり、
ともに追いかけてはきたものの、
やはり先ほど悲痛な様子で泣きじゃくっていた優也の姿が、気がかりで仕方なかったのだ。
小嶋と何かを話しているAたちの様子をしばらく見つめていた降谷たちは、
しぶる松田の腕を掴む鬼塚教官に連れられる格好で、永倉とともに警察学校に戻り始めた。
『あ、あの…!!』
直後、後ろから聞こえたAの声に振り向く松田たち。
『…本当に、ありがとうございました。
優也を探して、…見つけてくれて』
彼らに駆け寄るでもなく、Aは優也の傍に寄り添ったまま深々とお辞儀をした。
優也もまたそれに続いて、その目尻を濡らしたまま、彼らに向かってゆっくりと頭を下げた。
じり、と思わず足を踏み出そうとした松田と景光。
しかし、
「桜庭と、彼女の弟が心配かもしれないが、…君たちはこっちだ」
と、永倉の低い声にピタリと立ち止まった。
「警察なんかクソ喰らえ──、そう思っていたとしても、
君は、…君たちはまだ警察学校生だ。
警察学校生である以上、今日の騒ぎを何も無かったことに出来るわけじゃない。
警察官を目指すのを諦め、退職するか、
このまま警察官を目指すか、…この先どうするかは君たち次第だが」
永倉がふいっと視線を外し警察学校の方へと歩き出すと、
鬼塚は少し慌てた様子で険しい顔を浮かべ、彼らを促すような仕草をした。
永倉の言葉は先ほど言っていたこととは矛盾しているようにも思えるものだが、
その意味が分からないほど、景光たちは子どもではない。
松田とて、それが分かるからこそ複雑そうに唇を歪めているのだ。
Aと優也に心配そうな視線を向け、
安心させるように軽く頷いた景光たちは永倉に続いて警察学校に戻ろうとした。
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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時