甘くて、しょっぱい_6 ページ22
506号室はフロアの角にある部屋だった。
Aがキーを回すと、小気味良い音がカチャリと響いた。
優也の肩を支えるようにしてAが部屋に入るのを見つめながら、
「…じゃあ、…ちゃんと鍵閉めとけよ」
と、ドアの外で松田が声をかけた。
その視線は、彼女の足元にちらりと向けられていて。
松田の心配そうな複雑そうなその顔にゆっくり頷いたAは、
『今日は、…本当に、ありがとうございました』
と、もう一度頭を下げた。
その後ろで、何も言わないままで深く下げた優也。
松田は、
軽く首を振って、そのままドアを閉めようとした。
しかし、少し視線を落として何か考えている様子のAがふと顔を上げ、
絡み合った視線に小さく首を傾げた松田。
そして、
『あの、…良かったら、もし、良かったらなんですけど…、
夕食、食べて行きませんか?
...っていっても、買ってきたもの、ですけど』
「…は?」
予想だにしないAの言葉に、
どこか柔らかいトーンでお決まりの1文字を口にした。
『今、帰っても、寮の夕食には間に合いませんよね…。
…その、こんなことでお礼にはなりませんけど...、もう少し後で帰っても問題ないって言ってたので…』
視線を落とせば、Aの目に入るのは、松田の長い足と相変わらず裾が少し捲れたままの靴下で。
おそらく、外出届など出してはいないのだろうと、
そもそも届けを出そうとしたところで警視庁で騒ぎを起こした松田がそれを認めて貰えるはずもないだろうと、複雑な心境の中でぼんやり考えていた。
「いや、俺は…」
松田が口を開いた直後、
グゥゥ……、と見事なタイミングで響いた腹の音。
思わず小さな苦笑いをこぼしたAに、松田は仏頂面で眉を寄せた。
「姉ちゃん、…沢山買ってきたんだろ」
松田を引き止めたAを戸惑いがちに見ていた優也だが、
少々無愛想な彼の目をちらりと見つめた後、Aに向かって呟いた。
それは、誘いにも聞こえるセリフで、
松田は少しだけ思案した後、「悪ぃな」と言って、彼女たちに続いて部屋の中に入っていった。
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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時