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笑えねぇ冗談_5 ページ32

「桜庭ちゃんも、弟くんのことが一番心配だって言ってたからな...」

「彼は…実際に、…犯人に刺された、わけだろ」


不機嫌なオーラを放ったままの松田が、景光の重い声にふと表情を変えた。
わずかに震え始めた景光の手を見つめ、そっと近づいた萩原。


「…俺は、状況は…違うけど、
両親のあの事件があってから、…しばらく…、声を出せなかったんだ」

「…え?」
「…──は…」


事件のことは聞いていた。
ただ、当時の状況を詳しく聞いていた訳じゃない。
景光の心情を気にかけていなかったわけではないにせよ、
初めて聞く話に、
萩原と松田は戸惑い、その表情に暗い影を落とした。



「俺は、…隠れていただけだった。
優也くんが、…どういう状況だったのかなんて、分からないけど…、
怖くてたまらないんじゃないかって、…思う。
意識が戻って、まだ犯人が捕まっていないことを知ったとき、本当に…、怖かったはずだって。
それが、…斉木の父親のせいだったかもしれない、警察のせいかもしれない…っていうのは…」

「諸伏…」


目を鋭くさせた諸伏の肩に、萩原がそっと手を乗せた。
自分の事件と重ねているのかもしれない。
諸伏自身も、事件が解決するまで、時折暗く思い詰めた顔をしていたことは萩原も松田も良く知っていた。


「桜庭ちゃんも、…弟くんが精神的に辛そうだからって言ってたもんな…。
警察学校にいる意味は無くなったっていうのもそうだろうけど…、傍にいないとって、思ってんだろうな」



いるとも分からないAと優也を思い、
同じように、目の前のビジネスホテルを見上げた萩原たち。



「…あ、君たち」


そこに、聞いたことのあるような声が響いた。




「もしかして、桜庭さんに会いにきた…とか?」



そして、すぐさま表情を歪めた景光たち。
3人は、不審者を見るように声の主を睨みつけた。

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作者名:white12 | 作成日時:2023年1月21日 15時

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