別れは突然に_5 ページ19
教官室を出て、校舎に一礼すると、そのまま振り返ることなく歩き出したA。
そして、門を一歩出てゆっくりと息を吐き、
もう一度一礼しようとしたとき、
「桜庭ちゃん！」
聞き慣れた声にゆらりと顔を上げた。
こちらに走ってくるのは、やはり見慣れた姿だった。
「「「…」」」
声の主である萩原と、降谷、景光、そして、少し不機嫌そうにその後ろから歩いてきたのは松田だった。
「…もしかして、…と思って」
口を開いたのは萩原だ。
『書類、届けてくれたのは萩原さん、…ですよね』
「…」
『紛失、したかと思ったので。…ありがとうございました』
彼らの前でばら撒いたようなものだ。
紛失したなどと、そんな訳もないのだが、Aは当たり障りのない言い方で礼を口にした。
敢えて見ようとした訳ではなかった。
というのも言い訳のようなものだが、萩原は、昨日拾った書類におよそ何が書かれていたのかを目にしていた。
封筒に入っているわけでもなかったのだから、それも当然で。
それらは、反省文と、理由書のようなものだった。
“休暇願”
“欠席”
“無断で”
“事件”
きちんと読むでもなく、そんな言葉が目に入ってきただけで、彼女の状況を考えれば想像するのはいとも容易いものだった。
萩原が思わず眉を顰めて見つめてしまったのは、バラバラになった数枚の書類の1枚に書かれた1文だった。
“度々ご迷惑をおかけしてしまったことを深く反省しています。
これ以上、永倉教場そして警察学校の全生徒、教官の方々にご迷惑をおかけすることのないよう対処いたします──”
その書類の最後のほうには、Aの丁寧な字でそんなことが書かれていた。
昨日は、斉木との一件があり、本人に尋ねるなど出来るはずも無かったわけだが、
萩原にとって、Aの心情と行動を想像するのはそう難しいことではなかった。
同じく、それを見ていた降谷や景光の意見も全く同じもので。
女子寮の様子を気にかけるも、再び入る訳にもいかない。
夜に何度か、そして、早朝のこの時間にも寮の周囲をふらついていた萩原。永倉教官にさりげなく様子を聞きに行こうかと思った矢先、Aの姿を遠くに捉えた訳である。降谷と景光も、似たようなものだった。
そして、良く眠れなかった夜を過ごし、朝早くに寮の廊下をふらりと歩いていた松田は、
出会した萩原たちから話を聞き、険しい表情で今ここにいる訳だ。
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作者名：white12
| 作成日時：2023年1月21日 15時
