ざわめく新年_12 ページ12
一人にさせないと言ったからなのか。
松田は、離れがたい気持ちが膨れ上がりそうで、
ふぅと、天井を仰ぐように息を吐き出した。
斉木の兄の名前はまだ報じられていない。
優也の病室に入ってきた男も然りだ。
犯人である彼ら、そして、捜査を妨害した疑いのある斉木の父親への苛立ちは計り知れない。
その一方で、松田はAの心情が心配で仕方なかった。
「... ふぅ」
もう一度、大きく息を吐いた松田。
タバコがあれば、...などとつい考えた自分の思考を、
ふるっと頭を振ってリセットした。
最低限の生活用品が置いてある程度の寮の一室。
警察学校の寮だ。
どこか無機質で、いかにも女性の部屋という訳でも無い。
ただ、萩原が収めてくれたとはいえ、かなりのペナルティ事案。
そんなことは正直どうでもいい松田ではあるが、
離れ難いとはいえ、
Aがスゥスゥと眠るこの部屋に、彼女の側に、長居をするのが好ましいはずもなくて。
「…じゃあ、な」
起こさないように、Aの頭にそっと自身の大きな手を乗せると、
Aが再び身体をモゾモゾと動かした。
「…ッ」
彼女の手が軽く自分の腕にあたり、
ほんの少し掴まれたような状態に、今度こそ起こしたかと少し焦った様子の松田。
しかし、夢でも見ているのか単なる偶然か、
Aは目を覚ますことはなく、その手は、松田がそっと静かに掴んだだけでするりと腕から離された。
またも名残惜しいような感覚に苛まれるた松田だったが、
少しの間、Aの顔を見つめた後、
「…じゃあな」
と、今度こそといわんばかりにそのまま部屋の窓を開け、いとも簡単に外に飛び降りていった。
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作者名:white12 | 作成日時:2023年1月21日 15時