サンタクロースに願うのは_6 ページ6
「…桜庭さんが、何を考えていたのかは…分からないけど、
大事な弟を傷つけられそうになって、
その男を目の前に冷静にいられるはずない…っていうのは、
俺も、…そう、思うよ」
「…」
松田を庇うわけでもない。
ただ、どこか似ている境遇のAにこれまでも感情を寄せていた景光は、
やりきれない表情で強く奥歯を噛み締めた。
「その、ゼロたちが捕まえたっていう男。
桜庭さんの弟を狙って、病室に来た…んだよな」
「自供したかどうかは、まだ、分からないけど…な」
「3年前の、事件の犯人…って可能性は...」
「…あぁ。充分にあるだろうな」
優也は3年前の事件の被害者で、命を取り留めた人物。
1ヶ月ほど前に意識が戻ったというこのタイミングを考えれば、
犯人か、少なくとも、あの事件に深く関わる重要参考人である可能性は限りなく高いはずだ。
「大丈夫、なのか?」
「え?」
「その、桜庭さんの…弟」
降谷も景光も、
優也のことは”知っている”と言えるレベルではなく。
昨夜、男を取り押さえた後、
警官に囲まれつつ、動揺した様子のAに抱き竦められる彼の姿を見た程度だ。
「…もしそうだとしたら、
3年前に自分を…、刺した男が、病室に、いきなり入ってきた…訳だろ」
「…」
その恐怖は──、想像に難くない。
景光は、そう言いたい訳だ。
そうして、
「…桜庭さんも、
冷静じゃ…、いられないだろ」
険しい目つきで肩を小さく震わせる景光の口から、
ポツリと、独り言のような声が溢れた。
「…斉木の、兄貴のことも…」
同じく独り言のように続いた言葉は、降谷のものだった。
さまざまに葛藤しながら斉木の実家まで彼を尾行し、
結局何も出来ない現状を、“悔しい”と口にしていた矢先のことなのだ。
降谷と景光は、
言葉を続けることなく、似たような表情を浮かべて視線をちらりと交わらせた。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時