霙に溶けていくような_6 ページ48
「…ビンゴ、…ってか」
彼にしては珍しく小声で呟いた松田。
Aは何も言わず、ただ、刑事たちがインターフォンを押した後、ぞろぞろと斉木の実家に入っていくのをじぃっと眺めていた。
いつの間にか松田のコートのポケットに入っている自分の右手が、温かい温度に包まれていることに気を留める余裕もなかった。
小嶋に腕を掴まれた1人の男が、パトカーに乗り込んだのはそれから5分ほどしたからのことだった。
それは、Aにとっては見覚えのある男、ありすぎる男──、
斉木の兄である斉木
そして、Aと松田が目にしたのは、
頭一つ分小柄な目暮に腕を掴まれた中年の男性が、もう1台のパトカーに乗せられる姿だった。
ハッキリと状況が掴めないものの、
Aはやはり何も言葉を紡がないままで、どこか苦しげに表情を歪めてそれをじっと見つめていた。
松田は何も声をかけることは出来ず、
相変わらず時折舞い落ちる霙が彼女の髪を濡らしたのを、優しく手で払い除けた。
そうして、手のひらを強く握ろうとしているのか、
ポケットの中で掴んだままのAの手がもぞもぞと動くのを感じ、
それをただキュッと強く握りしめようとして、彼女の目尻が滲んでいるように見えて眉を寄せていた。
何かが動いた。
確証はないが、推察は間違ってはいなかったのかもしれない。
4年近くもの年月が経った今になって目の前で起こった状況に、
Aは、自分の右手が温かい温度で強く握り締められたのをどこか遠くで感じながら、
さまざまな感情がぐちゃぐちゃになりそうで、それでも不思議と冷静に、
わずかに滲み始めた視界を見つめていた。
視界を揺らがせるのは、怒りや悔しさか、まだ何も解決はしていないものの何かが進んだのかもしれないという安堵なのか、分からなかった。
頭や頬に時折舞い落ちる霙に何かが溶けていくようなそんなおかしな感覚の中、
Aは縋り付くようにただ、右手の温度を握りしめていたのだった。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時