霙に溶けていくような_5 ページ47
『もちろん、詳しい捜査状況が分かる訳じゃありません。
…でも、小嶋さんは優也を守ろうとしてくれた刑事さんで、目暮さんの言葉も...。
だから、もしかして...って』
「は…?」
『松田さん、…言ってましたよね。
感覚や勘みたいなものも、大事なスキルだって』
「…」
『ただの、推測かもしれないけど、...でも辻褄は外れてない。
…私は、自分の推察と、目暮さんの言葉を…信じてみようと、…思います』
すっと、松田と視線を合わせたA。
何か確証を得たような話でもなかったが、松田が以前、彼女の“推察”を聞いたときのように、
怖いと不安げに話していた姿とは違い、時折舞い落ちる霙で少し揺らぎながらもその目はしっかりとしたものだった。
「…刑事が来てるってこと、か?」
『それは…、分かりません。
私は見ていませんし、近くにパトカーが止まっている様子も。
でも、…何かが動いている、動こうとしているんだと、思います。
ホテルに移動してから優也がすぐに眠ってしまったので、そのままここに来ましたけど…、
もう、既に終わってしまったのかもしれませんし、
私の推察は、…間違っているかもしれません。
ただ、まだ何の権限もない警察学校生の私が踏み入って...、事態を好転させることはないんだと思います』
回りくどい言い方ではあるが、
捜査の邪魔になる可能性が高いのではないかと、
Aが言おうとしていることは、不器用な松田にも良く分かった。
目暮に言われたという言葉と、彼女がこれまで何度も浮かべてはかき消してきた推察と葛藤が、
そうさせているのかと、考えていた。
(…ん?)
先ほどAは、今朝ホテルに移動したと言っていて、
それから間もなくしてここに来たのだとすれば2時間以上は経っているはず。
そんな考えを巡らせた松田は苦い表情を浮かべると、何も言わず、
乱暴にAの冷え切った右手を掴み、そのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。
『…え、──え…?』
戸惑うAの耳に聞こえてきたのは、ザザッという静かなタイヤ音だった。
ふと真剣な表情で、その音を辿るように視線を動かし、目を見開いたA。
『あ…』
その目に映ったのは、斉木の家の前の路地に入ってくる2台のパトカー。
そこから降りてきたのは、――目暮と小嶋だった。
別のパトカーからは、スーツを着た2名の男性が現れた。
事情聴取の時、捜査一課のオフィスで見たことがある人物だとAは思った。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時