霙に溶けていくような_3 ページ45
「謝って欲しい訳じゃねぇよ。
それに、こんなとこで何してんだよ」
『…色々ありまして、優也は、今朝から都内のホテルにいます』
「は…？」
『病室と違って、バーロックを掛けていれば、不特定多数の人間が入室することは難しいですから…。
今、優也は疲れて眠っていて、それと私はちょっと、…え、っと…』
口籠るAに、松田は眉を寄せて口を閉ざした。
ひととき、静かになった2人は、
ポツ、と上から落ちてきた冷たい感触に同時に目を細めた。
「…」
『…雪、降り始めましたね』
上を見上げれば、雪とも言い難い霙まじりのそれがわずかに降り始めていて。
「やっぱり、あの男、…斉木の兄貴を疑ってんだろ」
『え？』
「こんなところまで来て、ただ見てるだけかよ？」
『ちょ、ちょっと…』
ズイッと、Aの横からその長い足を一歩踏み出して、斉木の家の方へ向かおうとした松田。
『ちょっと、待ってください…！』
小声で、叫ぶようにしてAは彼の手を掴んだ。
『待って、ください』
「…んで、だよ。
こないだも何もできねぇって悔しそうにして──」
『…シィ…ッ』
声を荒げそうになった松田の声を遮って、顔の側で人差し指を立てたA。
ちらりと斉木の家に視線を向け、気にする素振りを見せた。
「…は？」
『…』
そして、何も言わず静かに首を振ると、
松田の手を掴んだまま、路地の中へ一歩入り込んだA。
「…んなんだよ。
──っていうか、お前、いつからここにいんだよ」
訳がわからないというように無愛想に眉を寄せた松田だが、
ふと、今気づいたかのように自分の手を掴んでいるAの手を一瞬見たかと思ったら、
焦ったようにそのままそれを自身の手で包み込み直した。
「…バ、バカかよ…！めちゃくちゃ冷てぇじゃねぇか。
お前いつから──」
『…』
Aはパッとその手を振り払い、何でもないという素振りで軽く首を振った。
しかし、そんな彼女の様子には慣れきっている松田は、
おもわずその手をAの少し赤らんだ頬に伸ばし、
「…ッ。冷え切ってんじゃねぇかよ」
と、焦った声を漏らした。
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作者名：white12
| 作成日時：2022年11月2日 20時
