霙に溶けていくような_2 ページ44
1つ路線を変えて20分ほど経った頃。
松田が降り立ったのは、数日前にも来た駅だった。
「…」
無愛想な顔で、なんとなく空をぼんやり眺めれば、いつの間にか随分と薄暗くなっていて。
夜になるにはまだかなり早い時刻だが、気温が一段と下がったように思えて、
松田は無意識に肩に力を入れた。
駅を出て、ふらりとある方向へ歩き出す松田。
当てがあるわけじゃない。
ただ、なんとなく、
足が向いただけだった。
勘のようなものでもあり、
なんとなく思いついただけとも言えるものでもあり、
しかし、不思議とある種の確証を覚えるようなそんな感覚のもと、ゆらりと歩いていく松田は、
数分歩いたところでそのペースを落とした。
じぃっと見つめる先には、白を基調とした一軒家。
斉木の実家があった。
“やっぱり…悔しいですね”
そんな言葉を聞いたのは確かこのあたりだったかと、
人気の少ない路地で、松田は目を細めて何気なく周囲を見渡した。
そうして、小さな舌打ちとため息をこぼそうとして、
「…は──」
その口から溢れたのはイマイチ締まりのないすっとんきょうな一言だった。
彼の視線の先には、
Aがいた。
斉木の家の向かい。
薄暗くなっている路地に少し入り込んだあたりで、その家の門と玄関あたりを見つめるように立っている。
後ろ姿だが、
ちらりと見える横顔は、間違いなくAのそれだった。
「アイツ…」
まさか、ここにいると思っていたわけじゃない。
でも、そうかもしれないという考えも松田の中には少しはあって。
Aがいそうな場所など、警察病院と警察学校以外で思いつく場所なんか他にはなくて。
そして、苦しんでいる彼女のことを考えている間に、自然とこの場所に辿りついていた。
「…桜庭」
静かに彼女に近寄った松田。
聞き慣れた声に、Aの方がぴくりと大きく跳ねた。
『…ま、松田さん。なんでここに…』
「それはこっちのセリフだ。
弟はいつの間に退院したんだよ。誰もいねぇから、ビックリしたぜ」
くるりと身体を回転させ、驚いた様子で松田を見つめるA。
つい先日あからさまな苛立ちをぶつけてきた相手だ。
しかし、心配そうに目を細める彼の姿に、
『あ…』
軽く目を伏せて、“すみません”と口にした。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時