姉と弟_7 ページ41
2人が何を話しているのかはおよそ理解できる降谷たち。
その話をAの口から聞いたのは、演習で彼女が倒れた日、虫の声が鳴り響く医務室で。
あの日のAは、犯人への執着と憎しみをその目に冷たく宿す一方で、
過去を含めて自分のことはどこか諦めたような納得”させている”ような、そんな様子だった。
そして今、目の前にいる彼女は随分と違う雰囲気で。
萩原が吐息混じりに小さく頷くような仕草をみせると同時に、
降谷と伊達もまた目を細めてその様子を見つめていた。
『それと、…可哀想だとかそんなことは、全然思ってない…けど、
でも、大事な弟を心配するのは、…やっぱり当然でしょ?』
キュッと優也の肩を柔らかく掴むようにして、諭すような言葉をかけるA。
優也は、軽く息を飲み込んで沈黙した後、
「…だったら」
と俯いて小さく呟いた。
『え?』
「だ、だ…、ぃじ…な──」
『…?』
すぐ側にいるのに上手く聞き取れず首を傾げるA。
「…姉ちゃんを心配するのも、当たり前…だろ…!弟、なんだから!」
急に顔を上げて声を大きくした優也に、Aは驚いて一歩後退りをした。
瞬きを繰り返し、優也の言葉を反芻するも言葉が出ない様子のA。
「”大事な”、って言葉、…ちゃんと言わないとダメなんじゃない?」
「え?」
そこに、側に立ったままの諸伏が、ニッコリ笑って言葉を挟んだ。
「大事な姉ちゃんのことを心配するのは当たり前だって、…言いたいんだよな?」
「…」
『…』
諸伏を見つめて気恥ずかしそうに、気まずそうにパチパチ瞬きをしている優也。
そのすぐ目の前では、同じように瞬きを繰り返しているAがいて。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時