サンタクロースに願うのは_5 ページ5
その時────
コンコンッ。
部屋に響いた小さなノックの音。
今しがら頭に思い浮かべていた男ではないことは確かだな、
などと考えながら降谷はドアに近づいた。
部屋に入るときにノックも出来ないほど、非常識な問題児ではない。
しかし、昨日のことがあったとはいえ、
控えめな音でそれを鳴らすような性格をしているやつでもないからだ。
静かにドアを開くと、
そこにいたのはやはり松田では”なく”、
親友である景光だった。
「あ、ゼロ。悪い、もしかして寝てたか?」
「もう9時過ぎだぞ。
そんな訳ないだろ…、と言いたいところだが、
まぁ…、似たようなものか」
自嘲気味に笑う降谷に促されるように、自然に部屋に入る景光。
「どうかしたのか?」
「いや、…何ていうか…」
少し口ごもる景光に、降谷が小さく首を傾げた。
「昨日のこと、…気になってさ。
松田が言ってたこと…」
「…」
昨夜は、
寮に帰った後も、どうにも思い雰囲気のまま、
詳しいことを話すこともなく4人は互いに部屋に戻ったわけで。
松田と降谷の口論めいたあの話の詳細を景光は知らないのだ。
「…あぁ、その...実は──」
少し言いにくそうに昨夜のことを降谷が話し始めると、
景光の表情に重い影が漂った。
景光は、萩原とともに警報音の鳴る方向に向かったものの、
優也の病室から逃げたという男のことは、
警察が来た後で降谷たちから事情を聞いただけだ。
男を取り押さえた現場で何があったのかは当然知らない。
“彼女の感情に任せて、あの男を殺せば良かったとでも言いたいのか”
昨夜、売り言葉に買い言葉のような松田との会話の中、
降谷はそう言っていて。
詳しいことは知らないとは言え、
昨夜の会話から、なんとなく想像していたものの、
今、目の前の降谷の口から溢れる言葉たちを聞きながら、
眉間にシワを寄せて視線を落とした景光。
「”何か”があった訳じゃないと言えばそうだが、
…そうなっていた可能性も、僕には否定は出来ない。
かといって、松田が言っていたことが間違っているとも、…正しいとも、分からない…な」
「ゼロ…」
昨夜は松田を諫め否定するような態度だったはずの降谷は、
景光を前にしているからか、腹の中の迷いを隠そうとはしなかった。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時