姉と弟_6 ページ40
「心配…って、大変なのは、姉ちゃんも同じ…だろ」
『私は、大丈夫だから』
Aがまるで染み付いた癖のように、静かに首を振って小さく笑うと、
「…ッ。嫌なんだよ…!」
『え?』
優也が少し声を荒げた。
「大丈夫って、…何だよ。
この間、…あの男が勝手に病室に入って来て、…そりゃ凄く怖かったけど。
でも、姉ちゃんだって、大丈夫なんかじゃないだろ!」
『ゆ、優也』
「嫌なんだよ。姉ちゃんが、そうやって大丈夫だって笑うの。
俺は、…何も出来ないけど…!でも、大丈夫じゃないだろ」
戸惑いながらも、優也を落ち着かせようとしてその腕に手を伸ばしたA。
それは、すぐ側にいた景光も同じで、
「優也くんもさ、…桜庭さんのこと、心配してるんだよ」
と、彼を代弁するように言葉を紡いだ。
『え…』
「...俺は、…父さんたちか...殺された、あの日も本当に...、怖かった...けど…」
『…優也、思い出さなくて良いから』
優也の声が震え始めたことで、彼の腕に置いていた手で手繰り寄せるようにして、
安心させるようにふわりと弟の背を包み込んだA。
降谷たちは、近づくことなく、
ただ、姉と弟の”喧嘩”を見守っていた。
「…でも、姉ちゃんだって、…苦しかったはずだろ。
色々…、言われたり」
その言葉に少し驚いて、思わず至近距離の景光を見つめたA。
そうして、複雑な表情で軽く頷いた彼を見て、優也が何を言いたいのかを理解した。
『優也』
「…」
『…優也』
1度目は静かに、2度目に少し真剣な声色で呼びかけると、
Aは優也の肩に手を置いたままでそっと身体を離して、その顔を覗き込むようにした。
『それはもう、…終わったことだから』
「…」
『安易な考えで、…名前も知らない誰かが、勝手なことを言ってただけだから』
「でも、…なんで姉ちゃんがあんな風に言われなきゃいけなかったんだよ…、姉ちゃんだって...」
『良いの』
泣きそうな顔をして睫毛を震わせている優也の言葉を、Aが静かな重たい声で遮った。
『”そうじゃない”って、優也も知ってるでしょ』
「え…?」
『知ってるのは、私1人じゃない...から。だから、大丈夫』
そう言ったAは、自嘲気味なものでも戸惑いが混じったものでもなく、
はっきりと唇を引き伸ばして力強い表情で笑った。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時