姉と弟_5 ページ39
しばらくして──、
ガラッ
控えめな音とともに開かれた病室のドアに、
降谷たちが振り向くと同時に椅子に座っていたAがすぐさま立ち上がった。
『優也…!』
入って来たのは、
気まずそうな顔の優也と、その少し後ろで心配そうな柔らかな表情を浮かべた景光だった。
『外…、行ってたの?身体冷えてるんじゃない?』
駆け寄って優也の肩に手を乗せようとしたA。
「...大丈夫だよ。
諸伏さんが…、コート貸してくれたし」
『え?』
驚いて顔を上げると、諸伏の身体にはコートが羽織られているものの肩に乗せただけの状態で。
『す、…すみません。ありがとうございます』
と、Aは申し訳なさげに頭を下げた。
「ううん。俺はほら。これでも毎日鍛えてるしさ。
優也くんに風邪引かせちゃう方が心配だろ?」
さっき優也にも言った冗談めいた言葉をもう一度口にして、
優也の背中を押すようにして病室に入って来た諸伏。
『諸伏さん...、優也に付き添ってくれてありがとうございました。
優也、大丈夫だった?疲れてない?
──って、心配しすぎるの…良くないよね。ごめんね』
思わずまた似たようなことを言ってしまったAは、自嘲気味に優也に謝った。
『でも、”可哀想だ”なんて…思ってないよ』
「え…」
『そんなこと、思ってないから。
ただ、…心配なだけだから』
そう言って、泣きそうな笑みを優也に向けたA。
“嫌なんだよ。可哀想な目で…見られてるみたいで”
先ほど、優也に言われたことだ。
そんなことは微塵も思っていなかった。
でも、そう言われるような態度を見せていたのかもしれないと、
Aは上手く言葉に出来ない感情を噛み潰すように唇を歪ませた。
あの日。両親が殺された後、謂れのない言葉とともに向けられたのは腫れ物に触るような態度だった。
上辺だけの言葉。心配しているような態度の裏で、勝手な推測で揶揄うかのような疑いをかけられることもあった。
ヒソヒソと何かを囁かれ、可哀想な目で見られるのが、怖かった。
なのに、自分が、一番大事な弟にしてしまっていたのかもしれないと、Aは怖かった。
優也に続いて病室を飛び出して来た彼女が萩原たちの前で手を震わせていたのは、
伝わらないもどかしさに加え、そうした理由があったのだ。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時