姉と弟_3 ページ37
「あ、…まぁ警察学校で演習が一緒だったりちょっと話すこともあってさ。
俺──...、俺たちが聞き出したみたいなもんなんだけど…さ」
「…じゃあ、当時の、事件の後のことは…?」
「…え」
下を向いたまま目を逸らしていた優也が、ゆっくりと顔を上げ、諸伏と目を合わせた。
その真剣な眼差しに諸伏は小さく息を呑んだ。
何を聞かれているのかは、すぐに理解できた。
「…犯人はまだ捕まっていないって知って、めちゃくちゃ怖かった。
あの時のことを思い出すのは怖いけど、犯人を捕まえる俺が出来るのは、
警察に証言することしか…なくて。
覚えていることは、…もう、全部話しました...けど」
「…」
「目を覚ました後、思い出すのが怖かったけど…、姉ちゃんがいたから…、
“大丈夫”って、”無理に思い出さなくても良いから”って、…ずっと心配してくれてて、
姉ちゃんも…、犯人捕まえるために警察官になろうとしてて…、だから――」
途切れ途切れに漏らされる言葉に寄り添うように、優也の肩に置いたままの手にそっと力を入れた諸伏。
「ずっと意識がなかったから、…ちゃんと思い出せてるのかとか、何か忘れてることがないかとか、
…そう思ってスマホで調べて…」
「あの事件のことを?」
「…それで、──姉ちゃんが…、犯人なんじゃないかとか、…そういう記事や…書き込みを見て…」
何年経とうが、ネット上に書きこまれた文字は消えることはない。
彼が言いたいことが分かっていたはずの諸伏は、
震える声で漏らされたその言葉とその重みに、ギュッと唇を噛んだ。
「…それは、心無い人たちの安易で勝手な推測だ」
「…」
「でも、…君のお姉さんが、…深く傷つけられたのも事実だと思う」
やっぱりそうなのかと、優也は、身体の中に大きな波がうねると同時に目頭が熱くなるのを感じていた。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時