姉と弟_2 ページ36
「心配されてるのが分かっててもさ、…なんか、複雑だったりすることもあるよな」
「え？」
「事情は違うし、簡単に言えることじゃないんだけどさ。
俺も、兄貴がいてさ。
…歳が離れてることもあるんだけど、
いっつも冷静で、心配っていうか…的確なアドバイスをしてくれるっていうか、
そういうのもあって…まともな喧嘩した記憶がないんだよな。
まぁ、色々あってしばらく一緒に暮らしてはないから、仕方ないっていうのもあるんだけど…」
兄のことを思い出しながら、ほんの少し暗いトーンになりかけた声色を意識的に修正すると、
もう一度優也に視線を合わせた諸伏。
「…」
「心配、なんだと思うよ。桜庭さんは。
それだけだと思うよ。
…たった1人の、大事な、弟なんだからさ」
諭すようにして小さく首を傾けた諸伏に、
優也はキュッと唇を歪めた。
「俺だって、…姉ちゃんが、心配――で」
「…え？」
「…前は、姉ちゃん…、もっと怒ったり泣いたりしてたのに」
苛立ちと葛藤を交えた雰囲気で、小さくモゴモゴと唇を動かす優也。
「父さんと、…母さんが…、あんな事件に遭って。…俺は――、助かったけど、…何も、出来なくて。
でも、姉ちゃんは、…大学辞めて、警察学校に入ってて。刑事の人たちとも、色々話してて。
この間の事件も、…姉ちゃんと、あの男の人…、松田さんたちが、助けてくれて」
「…」
「それに、3年以上も、経ってるから...変わったのも当たり前かも、しれないけど。
前は、姉ちゃんはもっと怒ってたし、喧嘩も…してた。
でも、今の姉ちゃんは、…俺のことばっかりで」
「…えっと、…喧嘩したい、とかそういうこと？」
そうではないだろうと思いつつ、諸伏は言葉の続きを促すように問うた。
「そう…じゃなくて。
姉ちゃんだって、自分のことがあるだろうし、…それに――」
優也はそこで言葉を途切らせた。
奥歯を噛み締めているのか、顎のあたりがわずかに震えている様子に、彼の肩にふわっと手を乗せた諸伏。
「…諸伏、さん…でしたっけ…」
「え？あ、うん。」
「俺の、…両親が殺された事件のこと、…知ってるんですよね」
「…詳しい話までは知らないけど――、君のお姉さんから少し聞いてて」
「…」
Aから聞いているということが少し意外だったのか、小さく目を見開いた優也。
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作者名：white12
| 作成日時：2022年11月2日 20時
