姉と弟 ページ35
一方その頃、
優也を追いかけてきた景光は、警察病院の1階のフロアで彼の隣をゆっくりと歩いていた。
「寒そうだけど、外…出る?」
もともと外を散歩するつもりだったのだろう優也はコートを羽織っているものの、外はどんよりした雲が広がりかなり寒そうで。
「…1人で大丈夫です」
「ハハッ。寒いからついて行きたくない…ってのは、教官から大目玉くらいそうだな」
「え?」
「これでも警察学校で毎日鍛えてるんだよな。優也くんだっけ。寒かったらむしろ俺のコート使っていいよ?」
冗談まじりにそう言って、人懐こくニヤリと笑った諸伏に困ったように眉を寄せる優也。
自動ドアを抜けるとピュッと北風が吹き抜けた。
外はやはり相当寒く、冗談めいて言った言葉どおり、諸伏は自分のコートをさらりと脱いで優也の肩に置いた。
「え、だ、大丈夫です」
「君が風邪ひくと、”姉ちゃん”がもっと心配するだろ?」
「そ、それは──」
有無を言わさないように、諸伏はコートを押さえつけるように優也の肩をキュッと押さえた。
そのまま静かに、特に目的もなく敷地内をゆらりと歩き出した優也。
口を開かない優也を時折ちらりと見つめるだけで、諸伏は彼の隣を黙って歩いていた。
優也よりもかなり身長の高い諸伏の視線は彼に気づかれることはなく、そのまま2人の間に静かな時間が流れた。
そして、
「桜庭さん──、”姉ちゃん”と喧嘩でもした?」
さらりとしたトーンで、ふと諸伏が問いかけた。
優也はそれにはすぐに答えずにそのまま歩いていたが、
少しペースを落として、
「喧嘩…じゃ、ない」
と、呟いた。
そうして、そのまま足を止め、地面を見つめるように表情を歪めた優也。
いつの間にか中庭あたりまで歩いて来ていた2人。
ただでさえ人気が少ない年末の病院内だが、寒さゆえか周囲には誰もいない空間に一際強い風が吹き抜けた。
「そうなんだ?」
手をキュッと握りしめて複雑そうに眉を寄せている優也の前に回り込むと、諸伏は目線を合わせて柔らかく声をかけた。
「…姉ちゃんは、俺のことばっかりだから」
「…」
「俺の心配ばっかりで、…怒ったりしないし、…だから喧嘩じゃ…ない」
諸伏から目線を逸らし、呟くように続けた優也。
それを飲み込むようにして、一つゆっくり息を吸った諸伏の口から、
「そっか」
と、静かな声が漏れた。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時