姉弟ゲンカ_11 ページ33
『目を覚ましてくれただけで良かったんです。
無理に思い出さずに出来るだけ穏やかに生きていければ…、せめて優也だけは、って。
…でも犯人が捕まっていない以上、そんなことはやっぱり難しくて。
事情聴取を受けるだけでも辛いのは分かっているのに、
私も、…斉木さんのお兄さんのことや当時のことを、…聞いてしまって』
「弟さんの気持ちもあるだろうが、君が…桜庭さんが、…悪いわけじゃない。
犯人を捕まえるために、というだけだろ」
「そうだな。弟のことが心配なのはもちろんだろうが、…桜庭が1人で抱え込む話じゃない」
自分で口にした“何か出来ること”が明確にあるわけじゃなく、
降谷の声に被せるようにして、伊達は、自分のそれよりも30cmほど低いAの肩に手を置いた。
『…ありがとう、ございます』
Aは、今度は謝罪の言葉を溢さなかった。
「…で、この流れで聞くのもなんなんだけどな」
『え?』
伊達の太い声に顔を上げると、その顔は自分のそれより随分と高いところにあって。
降谷や萩原も、景光も、──松田も、かなり背の高い人物だと思っていたが、伊達はそれよりも高身長の持ち主で、Aはさらに一段首を後ろに傾けた。
「萩原からちょっと話を聞いてな。…斉木の兄貴のことだ」
『…』
「桜庭の推測だとしても、弟の証言もあるんだろ?そっちの捜査も進展はねぇのか?」
『…──、分かりません。
信憑性のある証言としては受け取れない、捜査一課の刑事にはそういったことを言われただけです』
先日、斉木の実家の前で既に聞いた話ではあったが、黙って聞いていた降谷の眉があからさまに歪められた。
しかし、伊達への答えの前に、しばし間を置いて視線をわずかに左右に揺らしたAの様子に、
伊達と萩原は、目を細めて複雑そうに顔を見合わせていて。
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作者名:white12 | 作成日時:2022年11月2日 20時